吸い付くような感触の鍵盤、弦が、フレームが、響板が、目の前で鳴っているかのような音像。それはまるで、完璧に調整された、フルサイズのコンサート・グランドを演奏しているかのような体験。

都内某所、新製品発表会当日。会場のホワイエに展示されていた電子ピアノに触れ、ホール内での実演を目にし、スペックで説明することの難しい「何か」を感じた鍵盤堂スタッフは、早速製品開発者へのインタビューをオファー。製品開発の中心人物である、ローランド・第二開発部長・北川氏、コーポレート・コミュニケーション部・ブランディンググループ リーダー 上郡山氏の両名を浜松よりお招きし、このシリーズの秘密に迫ります!



鍵盤堂(以下KBD):本日は浜松よりわざわざお越し頂きありがとうございます。まず、この製品についての概要をお聞かせ頂けますか?

Roland(以下R):ローランドの電子楽器は、1977年に世界で最初にタッチセンス付きの電子ピアノ「EP-30」を発売して以来、ずっと「楽器」であることにこだわってきました。最初は電子発振音のアナログ音源、その後デジタル化されてSA音源やPCM音源、V-PianoやSuper Natural音源と、様々な方式を採用してきましたが、全ては同じ「楽器としての表現力」を目指してきた訳です。そして今回、音、鍵盤、サウンド・システム、そしてデザインやデジタル・アプリケーションに至るまで、全てを一新したのが、今回のLX/HPシリーズです。

KBD:表現力という点で、まず触れた瞬間に感じたのが鍵盤の良さでした。
R:様々なピアニストの方に弾いて頂いたのですが、皆口を揃えて「安心感がある!」と絶賛して下さいます。全てにおいて新設計のPHA-50鍵盤のポイントは、この「安心感」を生む剛性感の高さではないかと思います。

KBD:剛性感の高さ、というと?
R:これまで、鍵盤は一番奥の回転軸部と鍵盤手前側で固定していたのですが、今回はスタビライズ・ピンを新たに採用し、横方向の遊びを更に小さく抑えました。更には真ん中を通る樹脂部分と、それを両側から挟みこむ無垢の木材という構造も、打鍵時の感触を重視して細かく詰めた部分です。

KBD:確かに、従来モデルの鍵盤(PHA-4鍵盤)と比較すると、横方向の遊びが少なくなっていますね。あと、表面の感触も変わりましたが、これは素材が違うのですか?それとも、表面仕上げが違うのでしょうか。
R:表面仕上げですね。従来の鍵盤に比べて、白鍵はより滑らかでサラリとした感触になっています。黒鍵はこれまでのマットな質感と比較して、若干光沢感が増しています。

KBD:この感触が、吸い付くような弾き心地を生む要素の一つなのかもしれませんね。
更に、樹脂と木材のハイブリッド構造ですが、木製鍵盤をあえて採用しなかったのは、やはり耐久性や精度の問題があったからなのでしょうか。また、木材は装飾用で、強度的・精度的な部分は樹脂部が担っているという事なのでしょうか。

R:そうですね。木製鍵盤はどうしても気温や湿度の変化に敏感で、長期間に渡り必要な精度を保つことが困難なのです。但し、両サイドに貼り付けた木部でも打鍵時の応力を受ける設計となっています。打鍵時の感触も含め、非常にこだわった部分です。


KBD:錘も入っていないし、無垢材が貼られている割に、想像していたよりずっと軽いですね。この軽さが鍵盤の戻りの速さに貢献している印象です。
R:錘付きの鍵盤ももちろん試しましたが、今回の設計では無い方が良い結果が得られました。ダブルH鋼構造の樹脂部に無垢材を貼り付けたことで、剛性感は従来モデルと比較して約30%アップしています。その上で、樹脂より比重が軽いファルカタ材を使用しているため、強度と軽さが両立できました。

KBD:この鍵盤のタッチに関し、リファレンスとした具体的なピアノはあったりするのですか?
R:具体的にこれ、というものはありません。ご存知の通り、アコースティック・ピアノはたとえ同じメーカーの同じモデルであっても、個体差や調整によってタッチは千差万別です。様々なピアノのタッチを総合的に解析し、ピアニストからのフィードバックも踏まえながら鍵盤のタッチはチューニングしていきました。ここは非常にシビアな部分であり、先ほどの鍵盤本体の重量はもちろん、受けの部分のフエルトの材質、可動部に塗るグリスの量によっても大きく変化します。弾き心地の良さは勿論のこと、様々な仕様環境においてもメンテナンスフリーで常に安定したタッチを維持できることが何より重要です。具体的にはグリッサンド50万回、打鍵100万回、といった厳しい耐久性チェックを行っています。
KBD:タッチ、剛性感、耐久性。こうした部分のこだわりの結果が、演奏者が直感的に感じる「安心感」に繋がっている訳ですね。ちなみに、このカットモデルを比較すると、随分金属部が少なくなっている印象です。
ピアノらしくリアルなタッチ感は既に体感している通りですが、ひょっとして、この88鍵分の鍵盤ユニット、相当軽くなっていたりします?

R:はい。具体的なデータは今すぐにはお出しできませんが、キャビネットの構造やスピーカー増など(後述)で重くなる部分が多いにも関わらず、何れのモデルも先代より重量は軽くなっています。他にも様々な要素が絡んでくる部分ですが、鍵盤ユニット自体は大幅に軽量化されています。
KBD:凄い!このタッチで軽量化されている・・・という事は、この先のステージピアノ的な製品にも期待しちゃいますね(笑)
R:(笑)もちろん、鍵盤ユニット含め、今後の様々な展開を想定していますよ。
KBD:妄想が膨らみますね(笑)・・・と、つい鍵盤の話から始めてしまいましたが、いよいよ心臓部の音源に話題を移していきたいと思います。この「スーパーナチュラル・ピアノ・モデリング音源」は、従来の「スーパーナチュラル・ピアノ音源」とは異なる音源方式という事ですね。


R:はい。従来の「スーパーナチュラル・ピアノ音源」はあくまで88鍵盤ステレオサンプリングのPCM音源をベースとし、V-Piano譲りのモデリング・テクノロジーを融合させた音源ですが、今回の「スーパーナチュラル・ピアノ・モデリング音源」は、V-Pianoを継承したモデリング音源を搭載しています。
KBD:PCMベースではなく、発音部も含めたモデリング音源という事ですね。
R:ええ。これまでのローランド製品に限らず、有名なソフトウェア音源の殆どは、既存のアコースティック・ピアノの実際の音を録音し打鍵のタイミングで再生、そのサウンドを加工することで発音させています。もちろん、単音で聴いた場合は非常にリアルな元のピアノそのものの音なのですが、例えばそれが和音を弾いたときも、ペダルを踏みっぱなしにして連打した時も、同じ響き方をする訳ではありませんよね。それぞれの鍵盤に張られた弦は個々に振動していますが、その現を受けるフレームや響板は共通しており、複雑な共鳴を生んでいます。現代のPCM音源でも、こうした部分のシミュレートは非常に高い精度で再現することが出来るようになってきたのですが、より高い表現力を目指したのが、今回のモデリング音源なのです。

KBD:更に一歩高い次元の表現力のために、ですね。
R:モデリング音源では、88鍵分の弦、フレーム、響板など、ピアノの構造そのものを個別にモデリングし、個別にその振る舞いを再現することで、相互に影響を与えあう、複雑なサウンドを生成しています。そして楽器全てに共通して大切なことは「弾き方、弾き手によって音が違ってくる」事でないかと考えています。演奏者の個性が反映され、微細なタッチの違いが音色に影響を及ぼすようなアコースティック楽器の弾き心地を目指しています。PCM音源の場合は、「ベロシティがここからここまでの間」では、音量の僅かな違いこそあれ、同じ録音された音が再生されます。しかし、モデリング音源では非常に細かい強弱の違いを読み取り、弦の振幅や各部の共鳴に反映されていくため、極端な話、鍵盤を弾く度に毎回違う音が出力されるのです。

KBD:よく例え話として挙げられる、パラパラ漫画と3DCGアニメーションの比較、ですね。
R:はい、現代のPCM音源は非常に多くの写真を集めたパラパラ漫画のようなものですから、個々のフレームは本物そのものですが、様々な状況で自然な動きをコントロールすることは困難です。一方で3DCGのアニメーションは、動きそのものを自在に操ることが可能です。演奏者にとって、楽器としてどちらが自然で心地よいのかといえば、瞬間のリアルさよりも、演奏に追従してくる反応、動きの追従性の良さなんですよね。
KBD:V-Piano以降のMIDIの128段階という枠を超越したベロシティ検出制度と、それに直結した音源だからこそ実現できる世界だと思います。そしてモデリング自身の精度も非常に高い訳ですから、もうハリウッドのCG映画並みのバーチャル・リアリティ音源という訳ですね(笑)。
R:(笑)ただし、今回の製品はあくまで家庭用の電子ピアノというカテゴリーなので、V-Pianoのような現実には存在しないSFカテゴリーに属するような部分は省略して、アコースティックピアノに必要な部分だけを抽出しています。

KBD:それでも、それぞれ特徴ある4種類のグランドピアノ音色がプリセットされており、更に個々の要素を変更することで幅広いピアノのサウンドが得られますね。ちなみに、それぞれのモデルは具体的にリファレンスとなったモデルがあったりするのですか?
R:いえ、4つのグランドピアノ音色は、音源部の膨大なパラーメーターのセッティングの違いによるものです。リファレンスの存在についても、鍵盤と同様に特定の個体が存在する訳ではありません。あくまでも表現力の高い、ピアノらしいピアノを理想として、曲調や好みにあわせてお選び頂ける4種類を用意させて頂きました。
KBD:そういえば、実機やスペック表を見て気がついたのですが、今回登場の4モデル(LX-17/LX-7/HP605/HP603)については、これまでお伺いしてきた音源と鍵盤、そしてペダルといった要素が全て共通なんですね。
R:比較表の意味がありませんね(笑)。でも、これこそが重要なんです。直接演奏の際に触れる鍵盤と、音そのものを生み出す音源という、楽器にとって最も大切な要素に関しては、普及価格帯のモデルであっても一切の妥協はしていないという事です。


KBD:操作パネルも全モデル共通ですもんね。これは実は凄いことなんじゃないでしょうか。逆に言えば、価格の違いはキャビネットとスピーカー、という事ですよね。
R:ええ、上位3モデルには、ピアノ独特の立体的で動きのある音場空間を生み出す「アコースティック・プロジェクション」を採用しています(HP603のみ一般的なステレオ・スピーカー)。既存の電子ピアノの多くが、既に複数のスピーカーを備えたサウンド・システムを採用していますが、元の波形が通常のステレオ・サンプリングですから、2chステレオを基本に、帯域分割でそれぞれのスピーカーを鳴らしている訳ですね。しかし、今回の製品では音源部から、それぞれの部位の成分を抜き出し、異なるサウンドを再生しています。これは、モデリング音源だからこそ実現した技術ですね。
KBD:グランドピアノの奥行き感というか臨場感が、何というか、凄いんですよね。最初に弾いたときに感じた印象は、このアコースティック・プロジェクションの効果も大きいのでしょうね。最上位モデルのLX-17では、低音域と高音域で非対称なスピーカー構成になっていたり、屋根の開閉も可能になっていたり、アコースティックな響きも考え抜かれた設計だなぁと思いました。
R:LX-17では、ホームタイプの電子ピアノでは初の、8スピーカー構成となっています。特に、最も演奏者に近い部分のニアフィールド・スピーカーは4基のユニットを、鍵盤の中央付近も含めてレイアウトしています。これにより、ステレオ再生時の中抜け感を低減し、目の前に鍵盤ユニットや弦が存在するかのような臨場感を生み出しています。もちろん、全機種こうしたアコースティックな鳴りにはこだわっています。立体的な音場を作るためには、立体的なスピーカーの配置がより効果的であるため、LX-7とHP605では、従来よりキャビネットの全高が高くなっています。何れも、演奏者の位置でベストなポジションとなるようチューニングしていますので、音に包まれた空間で演奏をお楽しみ頂けます。更に、ヘッドフォン出力部でも立体的な音場を生む「ヘッドホン・3D・アンビエンス」を採用していますので、夜間の演奏でも気持ちいいですよ!


KBD:更に、細かい部分のギミックが心憎いです。従来モデルからの特徴ですが、蓋をちょっとだけ閉めることで、操作パネルを隠して演奏に集中できるアコースティック・モードの存在に加え、電源の自動ON/OFF機能が搭載されましたね。
R:ええ、蓋の開閉で自動的に電源がON/OFFとなることで、演奏時はもちろん、演奏の前後も電子ピアノであることを意識させない操作感を実現しています。
KBD:そして、Bluetoothの搭載も便利そうですね。
R:譜面アプリとの連携や、ミュージックデータのダウンロードや再生、そして音色エディットができる「Piano Desiger」も用意されています。

KBD:このアプリを使うことで、本体の操作パネル以上の音色エディットができたりするのですか?
R:いえ、「Piano Desiger」で操作可能なパラメーターは本体パネル部と同一です。しかし、タブレットならではのグラフィカルな表示や、複数パラメーターを同時に俯瞰しての操作が行えるため、より直感的な調整をお楽しみ頂けます。
KBD:加えて3.5mmと1/4"、2種類のサイズのヘッドフォン端子にはイルミネーションが用意されており、暗い部屋でも判りやすくなっていますね。そして何と言っても、オーディオ出力端子がヘッドフォン端子と同様に、前向きに設置されているのが素晴らしいです。しかも1/4"フォーンジャック×2だなんて、ホームタイプの電子ピアノに見せかけて、実際はもっと幅広いユーザー層狙ってませんか(笑)?
R:(笑)ええ、たとえばバンドでステージピアノやシンセサイザーを演奏している方にとっても、家で純粋にピアノと向き合う時間というのは大切ではないでしょうか。そしてそのままレコーディング、というようなシチュエーションでもアクセスし易い場所にオーディオ出力を設けています。
そして、全高は高くなりましたが、奥行きは非常にコンパクトな設計となっています。椅子も収納時には鍵盤の前端からはみ出さず、邪魔にならない構造です。


KBD:鍵盤ユニット以外にも、軽量化に貢献している部分はありますか?
R:キャビネットの構造、スピーカーやアンプの最適化・効率化も軽量化に貢献しています。更に、効率化による商品電力の低減により、トランスを使用した内蔵電源からACアダプター駆動になった事も大きいです。

KBD:ホントだ!スイッチング電源の小さなACアダプターになってますね。確かに、LX-17でも消費電力は僅か13W、この仕様であれだけの音量と音質を実現できているのは凄いです。カラーも一新されていますね。
R:はい。中でも注目して頂きたい新色がLX-7に設定されている「ブラウンウォールナット調仕上げ」ですね。このカラー、実は社内の女性スタッフだけで企画されたものなんです。何度も家具のショールームに足を運び、インテリアとの調和を考え抜いて決定した自信作です!
KBD:確かにこの落ち着いた感じ、部屋の中に自然に溶け込みそうな雰囲気がありますね。



KBD:それにしても、実に細かいこだわりが詰まったピアノですね。細かすぎて伝わりにくい部分も多々あるかと思いますが・・・
R:それで良いんです。私達のこだわった部分は、結果的にほんの僅かな違いしか感じ取る事ができないかもしれません。しかし、数値に表れない、感覚的な気持ちよさが少しづつ積み重なった結果、「あれ?何か弾き易いかも」「何となく、気持ち良い音!」と感じて頂けるのだと思います。
KBD:そういう感覚、大事ですよね!まず、先入観無しに弾いてみて、気持ちよくなって。その上で、より好みの音にチューニングしていく柔軟性もある。とにかく、本当の意味で楽器らしい楽器ではないでしょうか。
そして安心感のある素晴らしいタッチでしかも軽量な鍵盤ユニット、新開発のBMCチップのモデリング音源、アコースティック・プロジェクション、Bluetooth連携・・・これら全て、このピアノのためだけの技術じゃないですよね。

R:はい。今後様々な展開の可能性も考慮して、独立し、組み合わせが可能なユニット構成となっています。今後のニーズ次第で様々な製品への応用も考えています。
KBD:この音源チップ「BMC」ですが、プログラム次第でアコースティック・ピアノ以外のモデリング音源にも使えますよね。例えばステージピアノ用のエレピとか・・・(笑)
R:もちろん、エレピのモデリング音源だって対応できますよ。アコースティック・ピアノも、電子ピアノとステージピアノに求められる要素は異なってきますから、そういった部分も含めて幅広く応用できる音源チップです。
KBD:このピアノの弾き心地で
R:今回のLX/HPシリーズは、ローランドがこれまで培ってきた電子ピアノの集大成、決定版とも言える自信作です。是非この弾き心地を、まずは店頭にてご堪能頂ければと思います。
KBD:本日はありがとうございました!

・第二開発部長 北川喜康氏 (左)
・鍵盤堂 中山 (中)
・コーポレート・コミュニケーション部 ブランディンググループ リーダー 上郡山真人氏 (右)

V-Pianoで感じた驚異的な表現力が、新たな鍵盤、サウンドシステムを得て非常に高い完成度でパッケージングされた電子ピアノ。
インテリアに溶け込むホーム・ユースと見せかけて、その実力はリビングに収まるものではありません。是非、自宅スタジオの一角に、隣のリビングに、このコンパクトなピアノを置いてみて下さい。きっと貴方の音楽に新しいインスピレーションを与えてくれる、楽器演奏の原点に立ち返ることができる一台となるのではないでしょうか。



新LX/HPシリーズ ラインアップ






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池部楽器店 鍵盤堂
03-5728-6941
kenbando@ikebe.co.jp


Author Kenbando, Ikebe Musical Instruments, Aug. 2015