Lars Holm スペシャルインタビュー
世界中で愛される、「呼吸する楽器」アコーディオン。可搬性に優れ、手軽に演奏できる気楽な楽器という側面と、底無しに奥深い表現力の可能性を持つ高度な独奏楽器という側面を持ち合わせています。アコーディオンという楽器を深く理解し、弾きこなすには、やはりどこかの時点で「先生」に付いて学ぶことが、上達への近道となるでしょう。
ラース・ホルムさんは、スウェーデン出身のアコーディオン奏者であり、アコーディオン教育に力を入れる教育者としても知られます。非常に的確でアコーディオンへの愛情に溢れた彼の指導は世界中にファンも多く、来日の機会がある時は、公開レッスンなどのイベントを行い好評を博しています。

今回、ラース・ホルムさん来日に際し、当店でのミニコンサートが実現。多くのお客様にラースさんの素晴らしい演奏を体験して頂きました。
その興奮冷めやらぬ中、スペシャル・インタビューを決行。アコーディオンについて、じっくりお話を聞かせて頂きました!
鍵盤堂:ではまず、日本で主流のピアノ鍵盤アコーディオン以外にも、ボタン式クロマチック、ボタン式ダイアトニック(※1)など様々な種類のアコーディオンが存在しますが、それらの違い、目的、選び方などについて教えて下さい。

ラース・ホルム:クロマチック・アコーディオンとは、現在ではボタン式の事を指すことが多いですが、広義の意味ではピアノ鍵盤もボタン鍵盤も同じクロマチック・アコーディオンです。蛇腹を押しても引いても同じ音程が出て、半音単位で全ての音程を演奏できる基本構造を持ち、ただ右手の鍵盤の形が違うだけですから。
対するダイアトニック・アコーディオンは押し引きで異なる音程を持ち、演奏できるキーも限られます。クロマチック・アコーディオンの方が優れていると思われがちですが、決してそんなことはありません。ある特定の民俗音楽に限定すれば、ダイアトニック・アコーディオンは非常に合理的であり、演奏もし易い優れた楽器なのです。
もちろん幅広い汎用性は持ち合わせていませんが、その音楽(例えばケルト/アイリッシュ等)を演奏したいのであれば、ダイアトニックを選ぶべきでしょう。また、運指は全く異なりますが、練習すれば逆にその分、どちらも持ち替えて演奏できる様になりますよ。


●本日のイベントでは、ラースさんは途中でフリーベース・アコーディオン(※2)に持ち替えて素晴らしい演奏を披露して下さいました。まだまだ日本では演奏者の少ないフリーベースですが、このタイプのアコーディオンをはじめたきっかけは?

■フリーベースの存在を知ったのは、私が20歳の頃、ドイツのトロッシンゲン(※3)にてアコーディオンを学んでいたときでした。ある日、私はラジオでモーゲンス・エレガートという音楽家のアコーディオン曲を耳にして、衝撃を受けました。
「何だこれは!」と、早速自転車を全速力で漕いでレコードショップでその曲を手に入れて、演奏をコピーしようとしたのです。しかし、その曲はどうやっても自分のアコーディオンで弾くことは出来ませんでした。なぜなら、その曲はフリーベース搭載のアコーディオンによって演奏された曲だったのです。これが、フリーベースとの出会いです。
そして、幸運にもその後私はデンマークのモーゲンス・エレガート本人に出会い、師事することでフリーベースはもちろん、アコーディオンに関する様々なことを学び、そしてアコーディオンの教育に携わることになっていったのです。そうですね、もう40年以上前のことになります。

●フリーベースの良い点、悪い点があれば、それぞれ挙げてください。

■フリーベースは、一見難しそうに見えますが、ボタン式の場合は右手の3列、左手の3列が同じ運指で演奏できるため、実は非常に合理的なんです。逆に理解に苦しむのがピアノ鍵盤のトレブル(右手)を持つ、フリーベースアコーディオンですね(笑)。折角左手がボタン式のクロマチックなのに、右手は・・・あれは本当に混乱します。
1960年代頃には、多くの作曲家がフリーベース・アコーディオンのための曲を作り、芸術的にも、技術的にも非常に高い水準に押し上げられていきました。また、フリーベースならばピアノ譜がそのまま演奏できますし、例えばピアソラのバンドネオン(※4)用の曲も両手を使って演奏できますしね。

●ボタン式アコーディオンの配列は、一般的なCシステムの他にどんなものがあるのでしょうか。また、それぞれのメリット・デメリットがあれば教えてください。

■ボタン式のアコーディオンにも、様々な配列があります。白鍵(に相当するボタン)が右下がりの一般的なCシステム、右上がりのBシステム、そしてフィンランドだけは独自の配列です。またロシアの場合は右手/左手で音の並びが逆になっていたり、と様々ですね。
ただ、こうしたシステムの違いは大した問題ではありません。手に入れた楽器、教えてくれる先生の居るシステムの楽器を習得すれば良いのです。大事なのはそこから奏でられる音楽なのですから。

●「大事なのは音楽」・・・楽器好きな私達にとっても、時々本質を見失うことがあります。「良い音楽を生み出す」目的あっての楽器ですからね。肝に銘じておきます。と、いいつつボタン式とピアノ鍵盤式というアコーディオンを二分する方式が気になる私達です(笑)。日本ではまだまだピアノ鍵盤式が主流ですが、他の国ではどんな印象を受けますか?

■かつてはピアノ鍵盤式が主流だった国でも、近年ボタン式が普及し始めている印象ですね。先程のフリーベースの運指の件だけでなく、指の小さい子供にとっても楽に演奏できる音域の広さ、移調の容易さなどの合理性がボタン式を薦める理由となっています。例えば数年前まではピアノ式が主流だったベトナムの教育現場でも、近年ボタン式に移行し始めています。

●なるほど。日本でも、ボタン式アコーディオンの環境が今後より整っていくと面白いですね。話は変わりますが、ラースさんは何度も来日されていますが、当店にお越し頂いたのは初めてですよね?

■ええ。今日、鍵盤堂のアコーディオン売場を訪れて、非常に感銘を受けました。世界中探しても、これだけの台数のアコーディオンが並ぶ販売店はなかなか存在しません。全世界的に、アコーディオンの流通は先生から紹介された楽器をそのまま買う、というシステムが主流で、生徒は選択の余地が殆ど無いのが現状です。しかし、ここに展示されているアコーディオンを見ての通り、世界中には様々な種類、デザイン、音色のアコーディオンが存在します。先生からある程度のアドバイスを受けた上で、様々なアコーディオンを試して、自分の気に入った1台を選ぶことが理想ですね。日本には、こうしてアコーディオンを選んで購入できる店舗が存在することは、非常に良いことだと思います。

●ありがとうございます。私達はより若いミュージシャンの方たちにも、アコーディオンの魅力を伝えたいと思い、渋谷という町でこうした店舗を構えています。エレキギターやシンセサイザーを手にする感覚で、アコーディオンも気軽にはじめられる環境を作っていきたいと思います。

■そうですね。日本にはcobaさんという世界的に有名な大スターが居ます。彼の様な存在に刺激されて、アコーディオンを始める若い才能がこれからも増えていくことを私も期待しています。

●では最後に、日本のアコーディオン弾きにメッセージをお願いします。

■大事なことは、まず「良い演奏家のアコーディオン音を聴く」こと。日本、特にここ東京には大きなCDショップが沢山あります。恐らくここで手に入らない音楽は無いのではないでしょうか。インターネットだってありますし、この環境を活用しましょう。まずは様々な機会を通して、一流の音楽、演奏に可能な限り触れてください。そして「何が良いのか」を分析し、その良いところを盗む努力を怠らないで下さい。
そして、もう一つ大事なことは「自分の音を聴く」こと。ボーっとして無意識に弾いたり、注意力散漫になって他の事を考えながら弾いてはいけません。自分の音に意識を向ける努力が大切です。
あとは、良い先生に出会うチャンスを逃さないこと!

●ありがとうございました!
HOHNER VIENNA-2915
※1)ダイアトニック・アコーディオン:押/引で異なる音程が割り当てられている原始的なアコーディオン。感覚的にはハーモニカに近い演奏感を持つ。

PIGINI Peter Pan B
PIGINI Peter Pan B
※2)フリーベース・アコーディオン:左手ボタンが右手と同様に、ベース&コードではなく単音が割り当てられているアコーディオン。

※3)トロッシンゲン:有名なHOHNER本社の工場が存在する地方都市。音楽教育機関が多いことでも知られる。



※4)バンドネオン:アルゼンチンタンゴなどで使われるリード楽器。押し引き異音、左右の組み合わせで単音の音階が演奏できる点はコンサーティナに似ているが、ボタン配列が不規則なために演奏は困難を極めます。



あとがき
ラース氏と鍵盤堂スタッフ世界中に生徒を持つラースさんの言葉は、時にシンプルで明快に、時に厳しく重みのある響き。会話の内容も言語も異なるのに、何だか学校の先生との会話を思い出すひと時でもありました。

「フリーベース」、そして「ボタン式」。日本ではまだまだ少数派のこうした楽器も、これから盛り上がっていけば素晴らしいですね。

また、当店の品揃えに対しても、ラースさんのお墨付きを頂けた事は大変に嬉しく思います。全国のアコーディオン弾きの皆さん、是非当店や当店のWEBショップで様々なアコーディオンをご覧になり、お気に入りの1台を見つけて下さい!
これからも私達は皆様とアコーディオンとの良い「出会い」のお手伝いが出来れば幸いです。

ラース・ホルム(Lars Holm)プロフィール
スウェーデンのマルメ市在住のアコーディオニスト。1960年代、トロッシンゲンにてアコーディオンを学ぶ。
アコーディオンの教育活動を積極的に行っていたモーゲンス・エレガートに師事し、自身の演奏活動の傍ら子供向けのカリキュラムを作成、指導していることで知られる。以来、ヨーロッパ各国から日本、ベトナムなど20カ国でレクチャーを行い、初心者からベテラン、プロフェッショナルまで、幅広く影響を与え続けている教育者である。


■Folia / Attitudes■
ラース・ホルムさん参加のCDも当店にて販売中!!

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