1970年2月、イリノイのBob Heilが営む楽器店に一本の電話が掛かってきます。
「やぁ。君が、凄く大きなPAシステムを持っていると訊いて、電話したんだ。」
それは、Greatful Dead(グレイトフル・デッド)のJerry Garcia(ジェリー・ガルシア)からの電話でした。
Bob Heilは、10代の頃からオルガン奏者として勤めていた地元のFoxシアターから、巨大なAltec Lansing A-4スピーカーを譲り受けていました。
そのキャビネットに15”のJBL D140sを仕込み、JBLコンプレッション・ドライバーを組み込んだ60度と90度のラディアル・ホーンと、4~6基のJBLリング・ツィーターを組み合わせ、McIntoshアンプでドライブさせる、計20,000Wの、当時ではあり得ない“大型”のサウンドシステムを構築していました。
当時のPAシステムは、その数年前に行われた米国でのビートルズのスタジアム公演でさえ、10”のボーカル用ライブ・システムが使用されていた時代でした。
その後、Bob HeilとHeil氏の巨大PAシステムは、Greatful Deadのツアーに無くてはならない要素としてフルに活躍することになります。
これが、現代に至る“巨大PAシステム”時代の幕開けの瞬間でした。
その一夜をきっかけに、Bob Heilには多くのアーティスト達からのオファーが舞い込みます。
The Who、The James Gang、Jeff Beck、ZZ Top、Humble Pie、Seals & Croft、Bachman-Turner Overdrive、Leslie West、J. Geils、Ike and Tina Turner、Chuck Berry etc...
その後、Bob Heilは、スピーカー・キャビネットにファイバーグラスを採用したり、現代では当たり前に採用されているクロスオーバー・サーキットや、パラメトリックEQ、モジュラー方式のPA用ミキシング・コンソール等を製作、数々の近代PAシステムの技術的な礎となる革新を生み出します。
The Whoのツアーの為の大規模な“the Quadraphonic PA システム”もBob Heil氏の発明によるものでした。また、Peter Frampton(ピーター・フランプトン)やJoe Walsh(ジョー・ウォルシュ)の使用で知られる『Heil Talk Box』もBob Heil氏の発明品です。
その後、70年代のロック黄金時代の終焉と共に、Bob Heil氏はPA界への熱意を失います。
時は過ぎ、2000年代を迎えたある日、Bob Heilは、70年代からの友人であるJoe Walsh(ジョー・ウォルシュ)の自宅で、以前に彼にプレゼントしたHEiL Sound製のアマチュア無線用マイクを手にしたJoe Walshから、「このマイクにXLRジャックを取り付けてくれないか?」、とオファーされます。
「The Eagles(イーグルス)が今、使っているマイクは、不明瞭なんだ。君の作ったこの無線用マイクの方がいい音がする。」
「いや、そんな筈はないだろう。」
すぐにJoe Walshのスタジオでテストが行われました。
Joe Walshの言い分は正しく、違いは明白でした。そして、その事実に、Bob Heilは確信します。
“もっといいものが出来る。”
Joe Walshのアドバイスを得ながら、Bob Heilは、プロフェッショナル用マイクの製作をスタートします。
「私が“これはイケルのでは?”と思った試作機をJoeに送り、彼はそれを彼のスタジオで聴き、そしてステージで使いました。もちろん、The Eaglesのステージで。ベータ版のテストをThe Eaglesにやってもらうなんて!」
そして2003年、HEiL PRシリーズが完成します。
「HEiL社のプロフェッショナル・マイク達は、これまで、30年以上も何も変わって来なかったフィールドにおける新たな技術の第一歩です。」
HEiL Soundのダイナミック型マイクロフォンの最大の特徴は、そのカプセルにあります。
一般的なダイナミック型マイク・カプセルには、1/2から7/8インチ径のダイアフラムが採用されています。それに対し、HEiLマイクのダイアフラムには、PR20、PR22で1インチを超え、更に、PR35では、1.5インチに至る大きな径のダイアフラムが採用されています。これにより、歪みの無い、類まれな初期レスポンス性能、驚異的な周波数特性を獲得しています。
そして、Bob Heilが長きに渡るキャリアで培ってきた位相に対するノウハウ、各々のマイクに施されたフェイズ・プラグ処理により、背面からの音に対し、実に-40dBの減衰を確保しています。これは、ステージ上でのハウリングの要素の排除に通じると同時に、各楽器のクリアなセパレーションを意味しています。
現在、HEiL Soundは、Bob Heilの長きに渡る経験と造詣、そして類まれな音楽的感性が生み出したマイクロフォンの製造カンパニーとして、世界中のトップランナー達に認知され、第一線で使用されています。定番品の数々を遥かに凌駕した性能。優美なたたずまい。良心的な価格設定。
世界中のコンサート・ステージで、教会で、ストリート・パフォーマンスで、レコーディング・スタジオで、放送局で、HEiL Soundマイクロフォンの姿を目にする機会は増え続けています。
ダイナミック型マイクロフォン(以降ダイナミック・マイク)は、「ムービング・コイル」原理で動作しています。そこでは、薄いアルミニウムやマイラー・フィルム製の小さな直径のダイアフラムが、強力な磁場の中に留められた、髪の毛程の細さのワイヤー線によるコイルに取り付けられています。
音波(the acoustic sound waves)がダイアフラムにぶつかると、磁場の中にあるワイヤー・コイルは振動し、電気信号を発生します。この電気信号は、元の音波と同じ周波数です。
ダイナミック・マイクに共通した長所は、構造上の高い堅牢性と、低く抑えられた価格、外部電源を必要としない点、そして非常に高いSPL(Sound Pressure Level / 耐音圧レベル)です。ライブ・イベントやコンサートでは、エレキ・ギターのアンプ・キャビネットの前や、トロンボーンやトランペットの様な大きな音の楽器にも使用されています。
学校や教会の様な、ラフな取り扱いが予想される場所でも安心です。コスト面から、より多くの本数のマイクの所有を可能とし、それは、音響会社にとって大きな恩恵をもたらします。
一般的なダイナミック・マイクのトランスデューサーの直径は、1インチ(2.54cm)未満です。それらは、誤った帯域でのピークやディップのある音響特性を持ち、サウンドに、鼻のかかった、または、はっきりとしない、あるいはその両方の現象を引き起こしています。
そして、それらのダイナミック・エレメントの弱点を電気的に“修正”する為、過剰なEQ補正が施されているのが常なのです。
大切なオーディオのルール:音響的な問題は、電気的な“修復”では解決出来ません!
この数年、HEiL Sound社は、ダイナミック・マイク界に、素材、技法、そしてデザインに関わる新たな技術をもたらして来ました。2005年、HEiL Sound社は新たなPRシリーズ “ラージ・ダイアフラム・ダイナミック・マイクロフォン”を紹介し、これまでのダイナミック・マイクが生来抱えていた多くの問題点を解決しました。初期反応と周波数特性が劇的に進化したこのHEiL PRマイクは、コンデンサー・マイクの代わりにさえ使用可能です。
その新たな技術では、一般的なダイナミック・マイクの1/2から7/8インチ径のダイアフラムと大きく異なる、HEiL Sound製1.5インチ径の超大型ダイアフラムを使用しています。これら、HEiL製の質量の小さなラージ・ダイアフラムは、これまでのダイナミック・マイクでは聴いた事の無い、より早い初期応答を獲得しています。
そして、精確に配されたフェイズ・プラグ(the phasing plug)と、独自のレア・メタルの配合(ネオジム、テツ、ホウ素)によるモーター内の強力な磁石は、これまでのダイナミック・マイクでは見た事の無い、広い周波数特性を生み出しました。
これらの新たなHEiLラージ・ダイアフラム・ダイナミック・マイクは、伝統的にはリボン・マイクの得意分野であった、ナチュラルでスムースな中域を提供します。HEiL Soundのマイクは、スタジオやライブ・イベント、そしてブロードキャスト・ブースにおいて、これまでに無かった、聴いた事のないマイクとして、際立った賞賛を得ています。
これらの革新は、これまで、リボン・マイクかコンデンサー・マイクしか使用されてこなかった場面においての、HEiLダイナミック・マイクの使用を可能にしています。
HEiLダイナミック・マイクは、様々な比較テストにおいても抜群の高評価を残しています。あなたも是非、お試し下さい!我々は、HEiL Sound のダイナミック・マイクPR 30とPR 40が、メジャー・スタジオでリード・ボーカルのレコーディング用マイクとして使用されている事を聞き、非常に嬉しく思っています。本来、ダイナミック・マイクがそうした場面で使用される事は、極めて異例な事なのですから。
創立者であるBob Heil氏は、現在のPAシステムが確立される黎明期に、PAシステムの大型化、近代化をはかったオリジネイターの一人です。
ホーン型スピーカーやファイバーグラスによるスピーカー・キャビネットを採用し、関連するエレクトロニック・クロスオーバー・サーキットや、パラメトリックEQ、モジュラー方式のミキシング・コンソール等を開発、近代的なPAシステムの礎を築きました。
また、楽器用のエフェクターとして、多くのアーティストに愛用されている『HEiL Talk Box』の発明者でもあります。
Bob Heil氏が関わってきたアーティストには、Greatful Dead、Joe Walsh、Peter Frampton、Jeff Beck、ZZ Top、The Who等が挙げられます。The Whoのツアーの為の大規模な『the Quadraphonic PA システム』もBob Heil氏の手によるものでした。
2007年、そうしたBob Heil氏の功績が讃えられ、『the Rock & Roll Hall of Fame』内、かのLes Paul氏の展示ブースの隣に、Heil氏の歴史的機器群が展示されました。音響技術者として、この栄誉が与えられた事は、『the Rock & Roll Hall of Fame』史上初めての出来事でした。
HEiL Soundの創り出したプロフェッショナル用ダイナミック型マイクロフォンにも、Bob Heil氏の長きに渡る経験と技術が注がれています。
「我々は、全てのアーティスト、サウンド・プロフェッショナルを尊敬し、彼等の声を聞き、彼等のベストが引き出せる製品を創ります。」