鍵盤堂:
|
浅倉さんにとっての「曲、音を作る」為のツールが、アコースティック楽器では無くシンセサイザーだったのですね。浅倉さんといえば、YAMAHAのシンセサイザーとの関わりが非常に深いのですが、YAMAHAシンセとの出会いをお聞かせいただけますか? |
浅倉:
|
やはり『YAMAHA
DX-7』ですね。『DX-7』は、当時、バンドにおけるキーボーディストの地位を一気に向上させた(笑)、シンセ界のある種記念碑的存在であるわけですが、これは僕にとっても本当に衝撃でした。
まず、FM音源との出会いが、僕にとって非常に大きな出来事なんです。
これまでのアナログシンセの音作りは倍音を削っていく方式(moogシンセサイザーに代表される「減算方式」)だったのですが、『DX-7』のFM音源という方式は、逆に倍音を増やしていく方式だったんですね。
倍音を削ると言うことは、ある程度音がこう変化するな・・・、という想像がつくのですが、倍音を加えていくとなると、全く想像が出来ない音が広がってくるんです。これがとにかく面白くて。
しかもこの『DX-7』の「理論上あらゆるアコースティック・サウンドを作り出せる」という触れ込みがインパクトがありました(笑)。それまでのシンセサイザーでも確かに「○○っぽい」音は作れましたが、やはり程遠くて・・・(笑)。
ですので、この『DX-7』では、とにかく色々な音をひたすら作りましたね。
また、『DX-7』といえば、それまでのシンセサイザーの常識を超えた"音色のメモリー機能"や、今となっては当たり前の"「MIDI」規格の搭載"も、当時としては物凄く画期的で新鮮なことだったんです。
特に「MIDI」は僕にとって大きな衝撃でしたね。様々な機器を集中制御できる夢のような規格が現実となったんです!
 |
CX-5(1983年発売)
|
音楽制作用に開発されたMSXコンピュータ。
当時の価格¥59,800 |
|
「MIDI」といえば、当時、YAMAHAさんがその「MIDI」をもっともっと知ってもらおうと言うことで、『X-DAY』という"デジタル・ミュージック・クリエイター"の為の大きなイベントを開催していて、これが楽しみでしたね(笑)。毎回、何かしら新しいものが出てきて。『DX』や続いて出てきたリズムマシンの『RX』シリーズ、そしてシーケンサーの『QX』シリーズとを「MIDI」で接続して動かす。「MIDI」をテーマに新しい音楽のあり方を提案していたんですね。これを全国の楽器店でツアーの様に開催していて。ホント、楽しかった(笑)。
僕も「MIDI」を知ってからは、すぐに『CX』シリーズ、後には『QX』シリーズといったいわゆるハードウェア・シーケンサーを手に入れて、大規模な曲作りを行って行くようになりました。その中でも思い入れのあるのは、記憶容量、操作性においても当時、非常に優秀だった『QX3』ですね。 |
 |
DX-7(1983年発売)
|
FM音源とMIDIを世界に知らしめた名機。
当時の価格¥248,000 |
 |
QX-3(1987年発売)
|
当時の最高峰ハードウェアシーケンサー。1/96の分解能を持ち、16のトラックを制御できる。
当時の価格¥158,000 |
 |
DX7II-FD(1986年発売)
|
DX-7 2台分の音源を搭載し、スプリット/レイヤーでの演奏にも対応したFMシンセサイザー。
当時の価格¥298,000 |
 |
TX-81Z(1986年発売)
|
シンプルながら、サイン波以外のオペレーターを素材としてFM変調できる音源モジュール。
当時の価格¥56,000 |
 |
V2(1987年発売)
|
TX81Z系のFM音源を持つシンセサイザー。可搬性に優れた小型で薄型の筐体が人気。
当時の価格¥110,000 |
 |
SY99(1991年発売)
|
PCM波形をFM変調でき、FM音源のフィルタリングに対応する「RCM音源」を採用し、QX-3に匹敵するシーケンサーを内蔵した、最高峰ワークステーション。拡張可能な波形メモリーを搭載し、サンプラーから波形をダンプすることも可能だった。
当時の価格¥420,000 |
|
鍵盤堂:
|
浅倉さんと『QX3』といえば、その"打ち込みの速さ"が伝説になっていますね。accessのライブ等で行われていたリアルタイムでシーケンスフレーズを組み立てていくパフォーマンスは圧巻でした。ライブ中に1曲作っちゃうんですから、凄い速さですよ。 |
浅倉:
|
おそらく世界最速でした(笑)。今思えば『X-DAY』みたいなところで、もっとパフォーマンスしておけば良かった(笑)。 |
鍵盤堂:
|
"打ち込み"の伝道(笑)。でも、今では当時の『X-DAY』の様な、電子楽器の祭典的イベントがあまり見受けられなくなってしまいましたね。そういう意味では、今回の『Digital
World 2007』のような電子楽器のイベントがまた開催されるようになったのは、楽器店の店員としても、いちシンセファンとしても凄く嬉しいです。
ところで、『DX-7』以降の浅倉さんの印象に残っているYAMAHAシンセは何ですか? |
浅倉:
|
続く『DX-7IIFD』ですね(笑)。実際、今でも第一線で使ってるんです(笑)。
『DX-7IIFD』のユニゾンで出した音は、他では出せないんですよ。『DX-7II』の6オペレーター32アルゴリズムでの音作りの自由度には及ばないものの、4オペレーター8アルゴリズムの音源モジュール『TX-81Z』とか、その当時のFM音源の機材は、「それでしか出せない独特の音」がありますね。今のクラブシーンでもよく使われていますよね。 |
鍵盤堂:
|
その後、FM音源登場の後もYAMAHAのシンセはどんどん進化して行きましたね。 |
浅倉:
|
『DX』シリーズの後、『V』シリーズを経て、『EOS』へと繋がって行く訳です。 |
|
 |
V50(1989年発売)
|
TX81Z系のFMシンセ、RX系のAWMリズム音源、QX系のシーケンサーを統合したワークステーション。
当時の価格¥156,000 |
|
 |
EOS B500(1990年発売)
|
小室哲哉プロデュースのEOSシリーズの大ヒット作。FM+AWMの音源にはTMネットワークで使用された音色を多数収録。
当時の価格 ¥168,000 |
|
|
鍵盤堂:
|
『EOS』!。私は"『EOS』ブーム直撃世代"ですから(笑)。『EOS』の登場は私にとって本当に衝撃でした
曲面を描くボディー、鍵盤を弾くのに合わせてLEDが光る機能が、カッコよかったんですよね。そして音もカッコよい即戦力プリセットが盛り沢山!更に浅倉さんたちの作ったサウンドが追加して行ける!
私は『EOS B500』を使っていましたよ♪ |
浅倉:
|
そうですか。ありがとう(笑)。
小室(哲哉)さん達と一緒に、『EOS』の開発に携わった時は、本当に沢山のプリセットを作りましたね。続々リリースされた拡張音色カードもユーザーの皆さんから大好評でしたね。
音作りの面で言えば、その後新たな音源方式を搭載して登場した『SY』シリーズがまた強力でしたね。 |
鍵盤堂:
|
『RCM音源』ですね。
|
浅倉:
|
そうですね。『SY55』、『SY77』といったシリーズでリリースされて。中でもFM音源とAWM2音源を組み合わせた発音方式(RCM音源)の上位モデル『SY77』は本当に多くの人が使っていましたね。その後発売されたSYシリーズの最終型『SY99』、あれは、FMシンセのお化けでしたね。「こんな音も出来るんだぁ!」って。音的にも大きなボディ的にも(笑)トータルで凄かったですね。まさに『SY』最終型に相応しいシンセでした。
でも、今はこれらのFMシンセの魅力のサウンドをソフトで再現出来るから良いですよね。『FM7』(NativeInsturument社製ソフトウェア:現行バージョンは
『FM8』)とか、僕も最近まで使ってましたね。 |