40年近い歴史の中で、"ワン・オブ・ア・カインド"の楽器作りを一貫してきたハイエンドベースの老舗、カール・トンプソン。
美しいスクロールデザインや、趣向を凝らした複雑な材の組み合わせによる独特の色使いなど、ここ数年の彼等の作品には特に素晴らしい芸術性の高さを感じますが、
それ以上に楽器としての優れたバランス、アーティストの感性に直接訴えかけてくるような魅力溢れるサウンドといった、楽器の魅力を語るうえで重要となるすべての要素が最高のバランスで成立しているように感じられ、
それはまさに彼等の持てるセンスと技術のすべてが結実し、作品としての価値と楽器としての魅力の双方において極みの域に達したものといっても過言ではないでしょう。
彼等の歴代の作品の中でも特に印象深いマルチ・ラミネートの傑作、レス・クレイプール(Primus)所有の通称"Rainbow Bass"を基にした6弦フレットレスモデルを以前に当店のリクエストで製作した実績がありますが、
その完成と同時にオーダーしていたものがこの5弦モデルになります。実は当店で新品のCTをご紹介出来るようになった2010年時点では、Rrainbow Bass および稼動式サドルの木製ブリッジに関しては製作不可とされており、
諦めざるを得ない状況だったのですが、その後我々日本のCTファンからの熱望に応えてもらうことが出来、ついに再製作の実現に至ったという経緯があります。

今回3本のみの限定で製作された当モデルは、さりげなくレインボー柄をあしらったバータイプのウッドブリッジを採用した美しいフレットレスモデルと、フレッテッドが2本で、
内一本には弦高調節が可能なHIPSHOT製ブリッジを搭載し、もう一本にはCTの醍醐味ともいえるアジャスタブルサドルを採用したフレッテッド用の可動式ウッドブリッジを搭載しています。
ウォルナット、パドゥーク、レースウッドの3色からなるボディーの美しいストライプは前回のオーダー仕様ともまた異なる色調でデザインされており、一切の着色をせず天然の木材本来の色とナチュラルなオイル仕上げだけで表現された楽器は、
木と人の手によってのみ生み出される暖かみのある色彩と柔らかな質感となっております。今回はボディーウィング部だけでなく、ロゴのプレート、ピックアップカバーの側面やナットの一部といった細部にまでレインボー・ラミネートが使用されており、
マニアならずとも思わずニヤリとさせられる、遊び心と職人の心意気が感じられる作品へと仕上げられています。
上質のトーンウッドのみを用いて組み上げられ、パッシヴ・サーキットで構成されるトンプソンの楽器ならではの、温かく、そして太く芯のある味わい深い独特のトーンは、
他のハイエンドブランドの楽器とは全く異なるもので、どちらかというとむしろヴィンテージ楽器やアコースティック楽器のフィーリングに近く、手作りでしか成し得ない木の温もりが楽器の手触り、鳴り、その佇まいから伝わってきます。
コレクタブルな美しい外観に仕上げられたCTの楽器の本当の素晴らしさは、そのユニークなルックス以上に、楽器としてのバランスの良さや、木の特性を活かした味わい深いトーンにこそあるといっても過言ではありません。
楽器としての使用を前提に各部の強度が計算された上で、CTの特徴のすべてが決して破綻することなくあくまでも自然に融合するようにデザインされ、どの角度から見ても一目でそれと判る、
楽器としてもアート作品としてもパーフェクトな作品に仕上げられています。

Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection