こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
主にギターやベースの素材に用いられる木材の中でも、マホガニーや、特にローズウッドのような材は、産地や種類によって性質が異なることから、同種の材の中でも密度や重量、色合いは勿論のこと、その質も実に様々なものが存在しています。中でも、これまでに数々の名機に使用されてきたこともあり、市場でも特に人気が高く、最高級の希少材として珍重されているホンジュラス・マホガニーやブラジリアン・ローズウッドといった材は、その一方では絶滅が危惧されており、1990年代の初頭からは正式に伐採や輸出が規制されたことで、その後、材の価格は高騰し続け、最近ではいよいよ入手自体も非常に困難な状況となりつつあります。 ![]() そんな厳しい状況の中、奇跡的ともいえる素晴らしい品質のマホガニーの1ピース材と、指板用のブラジリアン・ローズウッドが入荷したとの情報を得て、この度のオーダーに至りました。そして、それら最上級の素材は、日本で最高の製作技術を誇る職人の手によって、他に代え難い素晴らしいトーンをもった楽器として具現化されました。
カナダとアメリカの国境に位置する五大湖の湖底に100年以上もの間、限りなく無酸素に近い状態で沈んでいたという、Aqua Timber社が扱う樹齢1000年の老樹を含む木材の中から選ばれた、現在の約10倍の高密度と軽量を誇る上質のメイプル材をネックに、指板にはSugiが保有する中でも黒く目の詰まった、とっておきのブラジリアン・ローズウッド材を選定。同じくAqua Timber社が提供する本機のボディのホンジュラス・マホガニーの1ピース材もついても、明らかに異なる質の材が使用されています。ホンジュラス・マホガニー(学名:Swietenia macrophylla)は、中南米諸国に分布しており、現在一般的に流通している赤みが強く重めのものはペルー産とも言われていますが、本機の材は、比較的黄色味が強く、非常に軽量でなおかつ密度の高い、1950年代のヴィンテージギターに使用されているものに限りなく近いともいわれる、ニカラグア産の上質の材となります。 ![]() こうして、ATマホガニー、ATメイプル、ブラジリアン・ローズという、現時点で入手可能な最高の素材を用い、Sugiが得意とするセットネック・ジョイントによって丁寧に組み上げられた楽器は、上質のマホガニーのイメージから、ヴィンテージのレスポールを連想させるオリジナルのサンバースト・カラーをイメージしたオリジナルの“Vintage Burst”カラーを指定し、極薄のラッカー塗装で柔らかな質感に仕上げられました。
総重量3.5kgという驚くほど軽量なマホガニー・ボディの楽器ながらも、上質なホンジュラスの特性によるものか、ふくよかで豊かな鳴りの中にも程よい粘りが感じられ、さらに低音域のレンジまで途切れることなく響く、その懐の深さは、音に芯がありつつも温かみを感じさせるAT-メイプルの鳴り、アンサンブルにおいても確かなピッチを示すハカランダ指板の立ち上がりの良さとも非常に相性が良く、楽器の音色からは、それら全ての特徴がひとつの楽器の中に絶妙なバランスで成立しているように感じられます。
古き良きアメリカ製品の魅力を真に理解し、自らのエッセンスを加えて再構築したかのような、Sugiにしか作り出すことの出来ない上質の楽器は、時代に左右されることのない不変的な魅力をもった楽器であり、真摯に向き合い、長い年月をかけて楽器への理解を深めるごとに更なる魅力を引き出すことが出来る、良質なヴィンテージ楽器にも似た奥深さを感じます。
![]() Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya |