こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
現在普及しているE.ベースのサーキットとして最も多くのメーカーが採用しているアクティヴ・エレクトロニクスは、一般的には“積極的に音質を変えるもの”
としての認識が強いようですが、本来の意図としては、ノイズが乗りやすく微弱な高インピーダンスの音声信号を安定した信号へと変換し、さらにピックアップが原因で発生する不必要な濁りや歪みを取り除くことで、楽器本来のピュアな
トーンを安定した信号として取り出すことが出来る点にあったようです。
アクティヴ・エレクトロニクスを世界で初めてエレクトリックベースに搭載し、これまでに常識とされてきたベース・サウンドに革命をもたらし、その多大な功績によってその後のベースの発展に寄与した天才エンジニア、ロン・ウィッカーシャム氏が今なお現役を務める、世界最高峰のカスタム・ギター&ベース・ブランド、“Alembic(アレンビック)”。今回はアレンビックならではの個性溢れる楽器をご紹介致します。

工場出荷時のネック、フレットの設定数値が最新鋭のコンピューターの解析結果によってほぼ理想的と示された絶妙なフレッティングを始め、手作業による丁寧なサンディングによって仕上げられるボディ/ネックの滑らかな曲線、透き通るようでいて重厚な仕上がりをみせる独自のクリア塗装、さらにはサウンドの要となるピックアップやサーキットの製作に至るまでの工程の大半が自社の職人の手によって行われており、またその一方で、正確さが要求されるフレット溝やインレイの加工、ブリッジの切削に至るまでの緻密な作業には新旧のNCルーターを用いることで、ボディやヘッドストックの形状からネックシェイプの指定は勿論、スケールや弦の数、エレクトロニクスから弦間やブリッジの形状に至るまでのほぼ全ての特注を可能としており、他社では実質不可能であろう完全なるカスタムオーダーが実現出来る唯一無二のメーカーといえます。
当店からのオーダーによって製作された本機は、同社の“Europa”モデルのシェイプを基本に、キルテッド・メイプルのトップ&バック、ヴァーミリオン(パドゥーク)コアからなるボディ・ウィングと、メイプル+パープルハートによる強固なラミネートネックをネックスルー構造で組み合わせ、その心臓部ともいえるエレクトロニクスにはアレンビックの代名詞である“Series-I”サーキットを搭載し、さらにオプションのブルーSideL.E.D.ポジションマークを採用することで、カスタムオーダーならではの高級感溢れる5弦モデルへと仕上げました。

ハムバッカー並みのサイズながらターン数の少ないシングルコイルで構成された“SC-1”アクティヴ・ピックアップによって拾われた弦振動は、ボディ&ネックの高い剛性による重厚かつ透き通るような美しいトーンのまま、解像度を失うことなくファントムコイルによってハムノイズだけが取り除かれ、Series-Iサーキットを経由することで、もはやシンセサイザーにさえ匹敵するほどといっても過言ではない、S/N比率と高出力、上質のローBのサウンドを実現しております。
現行機種では、フォンジャックの出力においてもステレオ/モノの選択が可能であり、パワーサプライなしでも両ピックアップ共に出力が可能となっていますが、5PINの専用ジャックからパワーサプライ経由で出力することによって、さらに音圧とヘッドルームの許容を増したフルスペックのサウンドは、“アクティヴ・ベース”などというカテゴリに収めることの出来ない「Alembic」唯一のものとなっております。70年代初頭にエレクトロニクスの錬金術師が完成させた唯一無二のサウンドは、普遍的なサウンドでありながらもさらに進化し続けているようにさえ感じられます。

Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection
Shibuya
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