こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
今月は、楽器に“デザインの芸術性”という新たな観点をもたらし、機能性やサウンドといった楽器の判断基準以外に更なる付加価値を与えることにより、現在“ハイエンド”と呼ばれている個性溢れるカスタムベースの土台を築き、今なお多くのルシアーに影響を与え続ける、Carl
Thompson(カール・トンプソン)の作品をご紹介致します。

エレクトリックベースのストラディバリとも呼ばれ称賛されるルシアー、カール・トンプソン氏は、1974年の創業以来、これまでに、スタンリー・クラークやアンソニー・ジャクソンなどが自身の音楽の表現方法として楽器に求めた“ピッコロベース”や“6弦ベース”といった、70年代当時はあまりに斬新で独創的だったアイデアを、自身の音楽家としての感性をもって理解し見事に具現化したことで、エレクトリックベースの無限の可能性を開花させ、その後の発展に寄与しました。その後も色彩豊かなエキゾチックウッド本来の色を活かしたマルチラミネート構造を採用した6弦フレットレスの傑作、レス・クレイプール所有の“Rainbow
Bass”を始めとする美しいカスタムベースを数々手掛けてきましたが、この度、オーダーから3年半以上もの歳月を経て、遂に新品で入荷することとなった本機は、まさにCTのベースを代表する一本としてご紹介するに相応しい、素晴らしい楽器に仕上げられました。
エボニー、ココボロなどのエキゾチックウッドを10ピース以上のストライプ状に分割して組み合わせたボディトップに、アートとしての観点でみても完璧な美しさを誇るホーン部の3Dスクロールデザインが強烈な存在感を放つ本機は、上質のマホガニーを主体とする厚さわずか3センチほどの薄いボディと、同じくマホガニー1ピースのネックからなり、セットネック・ジョイントによって途切れることなくヒール部の滑らかな曲線で繋ぐことで、ロスの無い振動系統と反応の早さを獲得し、さらにマホガニー本来の太く温かなトーンをも余すところなく表現しています。加えて、より硬質な材を適所に配することで、薄いネックとボディの剛性を高め、ローB音までを鳴らしきるのに十分な強靭さを確保することで、5弦ベースとしての確かな鳴りをあくまでも自然な楽器のトーンとして仕上げている点は特筆に値します。

さらに36インチのエクストラロング・スケールを採用しているにも関わらず、演奏上無理の無い弦のテンション感、スケールの長さを一切負担に感じさせない均衡のとれた素晴らしく秀逸なボディバランスについては、レス・クレイプール氏が現在のメインである76年製のCTの楽器を初めて手にした時の印象として、「今までのどの楽器よりもバランスに優れた楽器だった」と語っている点を踏まえると、トンプソン氏が初期の頃から人間工学的に優れた楽器のデザインを感覚的に理解していたことを証明しています。
単に高価な素材を使用しただけの観賞用のオブジェのような楽器とは一線を画す、真の価値をもった素晴らしい楽器とは、美しいデザインや楽器としての機能性に優れていることは勿論、製作者の演奏家に対する配慮が随所に感じられ、あくまでも演奏家が主役であることをわきまえた楽器であると、私は考えます。

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Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection
Shibuya
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