こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
エレキギターとコントラバス。"オクターブ違いの弦楽器"という共通点以外、全く異なる2つの楽器をルーツに持つエレクトリックベースには、楽器のデザインや構造、スケールから弦の数、フレットの有無に至るまで、それこそ基本的なチューニング以外は楽器そのものに対する制約がほとんどなく、比較的自由度の高い楽器造りが可能な分野といえます。
中でも"フレットレス"というスタイルは、ギターの影響が色濃いソリッドベースに、コントラバスの要素を取り入れた非常にユニークな楽器といえ、他のどの楽器にも真似出来ない唯一の個性を確立したスタイルとなっています。それはある意味で、より高度な演奏技術と表現力を追求した結果、たどり着いた究極のスタイルともいえるもので、それはエレクトリックベースが何らかの代用品としてではなく、唯一無二の楽器として独立を果たし、完全なるオリジナルのサウンドを手に入れたことを意味します。
今月のコレクションは、そんなエレクトリックベースならではの魅力が凝縮されたフレットレスの名機、Pedulla "BUZZ"モデルをご紹介致します。
"エルゴノミクス"(人間工学)デザインを取り入れたメイプル製のコンパクトなボディウィング、トラスロッドの両脇に鋼鉄の補強バーが埋め込まれた薄く頑丈なネックのコンストラクションによって生み出される、どっしりと重みのあるスルーネックならではのサスティーンと、それとは相反するはずの豊かな鳴り感が絶妙な割合で共存した秀逸な鳴りは、バルトリーニ特注による、PJスタイルのオリジナル・ピックアップとプリアンプによって増幅されることで、ペデュラ特有の適度な芯を残した、太く甘い、上質のフレットレス・サウンドに仕上げられます。
ピックアップは、フロントのPだけでも十分に楽器として成立するほど、色気のある太く枯れたサウンドを聞かせてくれますが、さらにリアのJをミックスすれば、Pの太さに音の芯を加えた、さらに重厚で均整のとれたサウンドになり、また逆にリア単体にしてローとミッドをたっぷりと足し、トレブルを抑えれば、現代のアンプやDIを用いたフラットな再生環境においても、まるでジャコのように大音量でスピーカーをドライブさせているかのような、図太く芳醇なトーンを紡ぎ出すことも決して不可能ではありません。
また、フレットレス指板に施されたコーティングも"BUZZ"モデルの特徴のひとつに挙げられるものですが、今回はそれを承知であえてコーティング無しでオーダーし、エボニー指板の素材の感触を活かすことにしました。

立ち上がりの際にラウンド弦と木が擦れることで生まれるアタックのバズ音は、コーティングの表面に対するバズとはまた違った質感になっており、力強い鳴りの中に奏者の感情と共鳴するかのような抒情的な響きを与え、ペデュラのサウンドをさらに音楽的で繊細なものに感じさせます。フレッテッドのサブとして置いておくにはあまりに惜しい、きわめて高い実用性と豊かな感情表現を可能にした、全ての演奏家にとってメインに成り得る実力をもった楽器です。


Text by Kenji Okazaki,BassFitter / Bass Collection Shibuya