こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
アナログシンセサイザーの普及とその名手の活躍によりベースラインとサウンドに大きな変化がもたらされた1970年代以降、必然不可避であった多弦ベースの登場によって、ベースの最低音はE(41Hz)からローB(30Hz)にまでレンジを広げ、それまで主にギターのデザインを流用した製品が大半を占めていたエレクトリック・ベースは、音響特性や楽器のバランスを考慮した独自のデザインへと進化を遂げました。その後も研究開発に試行錯誤の末、洗練、淘汰を繰り返し、四半世紀の歳月を経ていよいよ完成の域に達したと実感出来る素晴らしい多弦ベースに出会う機会も最近では少なくありません。
2010WinterNAMMでひと際注目を集めていた、アメリカはオハイオのカスタムベース・ブランド“Skjold
DesignGuitars(ショード・デザイン・ギターズ)”のトップグレードモデルである本機もまた、そんな優れた多弦ベースのひとつとしてご紹介すべき逸品です。

本機は、Skjold Design Guitarsを代表する“Custom Series”モデルを基本に、ユニークなボルトオン・シングルカット・デザインの“Offset
Whale Back”ボディに、最上級“エキシビジョン”グレード・ウォルナット・トップを採用し、その他オプションを追加した同ブランドのトップグレードに位置するモデルとなります。
優れたレスポンスとローBの正確な発音を誇るメイプル/ブビンガからなる強固な5ピース・ネックの鳴りは、弾いてそれと判る高い剛性感がありながらも、音響特性に優れた軽量なスワンプアッシュ・ボディとネック内部のグラファイトの影響からか、ラミネートネック特有のスラップ時のコンプレッションが全くといって良いほど気にならず、むしろピッキングの強さに対して際限なく鳴りを増幅させることが出来るかのような錯覚を覚えるほどです。そして、そのたくましく豊かな生鳴りは、秀逸なオリジナル・ピックアップと英国East社製のオリジナル・プリアンプによって、他のどれにも属さない唯一の個性を確立した、艶やかでパワフルなアクティヴ・サウンドへと仕上げられます。

低音弦側12フレット付近までネックと一体化するようにデザインされた独特のボディ形状は、背面部とカッタウェイを深くえぐり込むことでハイポジションでの自然な演奏性を実現しており、加えて、低音部の鳴りをさらにしっかりと押さえこみ引き締めることで、あくまでもトーンの構成に必要な倍音成分は残しつつ、音の核となる基音部分をさらに増強。こういった仕様強化を経たことにより、抜けが良く“鳴る”楽器のメカニズムを実践しており、その効果はサウンドから感じることが出来ます。そして、さらにもう一点、ストリングポストに隙間なく巻かれた5本の弦は、ナットからブリッジ、ボールエンドに至るまで可能な限り直線上に張られ、弦振動へのストレスを最小限に留めることで、不必要な弦の暴れを防ぎ、弦楽器としての理想的な倍音構成を作り出し、5弦ベースの理想的なバランスに仕上げているという点も特筆に値します。
荒削りな中にも頑固なまでの一貫したポリシーが感じられ、豪快で力強い鳴りと表情豊かなトーンを持っており、古き良きアメリカ製品を思わせる大いなる魅力と将来の可能性を感じさせる楽器といえます。

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Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection
Shibuya
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