こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
エレクトリック・ベースの特殊なスペックのひとつとして、ランプに次いで近年静かなブームとなっている“33インチ・スケール”の5弦モデル。現在、エレクトリック・ベースに採用されているスケール(=弦長)は、広く普及されたフェンダー・ベースの“34インチ”を基準にレギュラー(ロング)スケールとされ、それ以外にもコンパクトなボディデザインに合わせた30インチのショートスケールや、その中間にあたる32インチのミディアム、またそれとは逆に長く伸ばすことでローB弦のテンションの強化を狙った35~36インチのエクストラロング・スケールまで、それぞれのモデルに合った最適な長さが考慮され、採用されています。弦楽器にとってのスケールとは、演奏性のみならず楽器によってはそのサウンドまでをも決定付ける重要な要素のひとつであるといっても過言ではありません。

本モデルに採用されている“33インチ”スケールは、私の知る限りではまだ約10年ほど前にリンカーン・ゴーインズ(ローB)やマシュー・ギャリソン(ハイC)といったアーティストが、自身の5弦ベースに取り入れたことで初めて製品として具現化されたスケールで、一般的な34インチから1インチ(=2.54cm)だけ短くすることにより、ロングスケール用の弦がそのまま使用可能、かつ楽器のバランスやサウンドをほとんど変えることなく大幅に演奏性を向上させることに成功した、実に画期的なスケールであるといえます。今月は、2009 Premium Guitar Showでお披露目となったSTR初となる33インチモデル、“LS539”をご紹介致します。

ウォルナット・ボディと1ピースのローズ・ネック、エボニー指板の組み合わせからなるハイC仕様の5弦モデルとして製作された本機は、アッシュやアルダーとも異なるウォルナット・ボディならではの持ち味が存分に活かされた太く芯のある重厚な鳴りが魅力の一本で、恐らくローBでセットアップされていたとしても同様に素晴らしい楽器になっていたことが容易に想像出来るほど、その仕上がりからは全く不安な要素が見当たりません。

また、造りの良さを誇る日本製の楽器がその加工精度の高さゆえに陥りがちな、鳴りやサウンドまでもが“洗練”され、綺麗に纏まり過ぎることで音が細く大人しく感じられてしまうといったこともなく、ハイCの響きは常に煌びやかで、タイトでありながらも温かく力強いベースサウンドを聞かせてくれます。また、ショウモデルならではといえる、木材や貝など天然の素材のみを用いた美しい緻密なインレイのデザインも秀逸で、さりげないながらも我々の所有欲を刺激するのに充分なアクセントとなっています。

そのサウンドと楽器の佇まいからは、高い加工精度や仕上げの美しさといった日本製品のイメージがそのまま「STR」の特徴として感じられ、日本のハイエンドベースを代表する「STR」の個性として活かされています。
次回はどんなモデルが登場するのでしょう。今後の展開が最も楽しみなブランドです。


Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya