こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
日本ではきわめて流通が少なくコンディションの良い個体は特にマニアの間で珍重され高値で取引されている“Wal(ウォル)”のベースは、1970年代の登場以来、ジョン・エントウィッスル、パーシー・ジョーンズ、ポール・シムノン、ゲディー・リー、ポール・マッカートニー、ミック・カーンの他、枚挙にいとまがないほど数多くのアーティストに愛され、結果その個性的なベースサウンドと共に人々の記憶にその名が刻まれていきました。今月のコレクションは、ハイエンド・カスタムベースの銘品としてコレクターのみならずアーティストからも今なお熱い支持を寄せる“Wal”のモデルの中でも少しばかり珍しい一本をご紹介しましょう。

カスタムベース・ブランド“Wal”は、1970年代の中頃、イングランドはハイ・ワイコムにあるエレクトリック・ウッド社のエレクトリックベース・ブランドとして、電気専門家のイアン・ウォラーと職人ピート・スティーヴンスにより興され、以降、1988年にウォラーが倒れ、2007年にスティーヴンスがリタイアを決意するまでの30年以上に亘り、上質のマテリアルと拘りのオリジナルパーツを用いて、職人の手によって一本一本組み上げられることで、高い品質と耐久性を誇る数々の名機が生み出されてきました。
そして今回ご紹介する本機は、当初アーティストのためのカスタムベース製作のみであった“Wal”初となるフルプロダクション・モデルとして、1978年に登場した“Pro
Series”ベースの初期の10ピース・ラミネート・ネック(1978~1979年製)に、ピックガードを廃した3ピースのソリッドアッシュ・ボディが組み合わせられており、極めつけに“Custom
Series(=MachI)”のサーキットが搭載され、1983年に出荷されたという、ProとCustomの両方の特徴を併せ持ったかなりイレギュラーなハイブリッドモデルとなります。
この仕様をどう捉えるかはもちろん人それぞれですが、シンプルなアッシュボディならではのオープンな鳴りと“Custom”エレクトロニクスの組み合わせからなる固有のサウンドは、上質ながらも決して上品に纏まり過ぎることがなく、ソリッドで力強くダーティーなサウンドは、ProともMach
Iとも異なる本機だけの魅力となっております。
2009年、ウォラーとスティーヴンスの意思を受け継いだポール・ハーマンによって奇跡の復活を遂げた“Wal”ブランドは、また一歩、新たな道を歩み始めました。

Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection
Shibuya