こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。

ソリッドベース誕生の地であり、世界に名だたるルシアーの大半を有するアメリカで30年以上のキャリアを持つ重鎮でもあり、今なお第一線で自ら楽器製作を続ける巨匠マイケル・トバイアス。その自らの名を冠した“MTD(Michael TobiasDesign)”の楽器は、あえて多くの割合が職人の手に委ねられた昔ながらの製法によって一本一本組み上げられることで、驚くほどしっとりと体にフィットする柔らかな曲線を持ち、楽器の鳴りや音色そのものがまるで生き物のように異なる個性を持った魅力溢れる楽器に仕上げられます。

それは単に形状や仕様の違いといったスペック上に表せる個体差のことではなく、木材の音響特性を熟知し時に我々には無謀とも思える組み合わせながらも絶妙なバランス感覚と類まれなるセンスをもって、それらの素材を融合させ一つの“個性”として仕上げることを意味します。

もはや彼の楽器製作の過程には一種の芸術性すら見出すことが出来ますが、今回ご紹介する本機もまた、そんな手作りならではの魅力が多分に感じられる個性溢れる一本です。

当店にて選定した上質のスポルテッド・キルトメイプル材をボディトップに、その色目に合わせたダークな色合いのコリーナ(ブラックリンバ)材をボディバックに組み合わせ、さらに6弦モデルとしては珍しい1ピースの板目のメイプル・ネック、ホンジュラス産の硬めのローズウッド指板を採用。

アッシュとマホガニーの良い部分を合わせたようなコリーナの自然な太さと程よく塊感のあるローエンドが何とも心地よく、タイトなローBからハイCの煌びやかな響きまで、各弦のバランスを一切崩すことなく、オープンで力強い鳴りを持った「MTDらしさ」が溢れる6弦モデルに仕上げられました。

また、一見他との大きな違いが見られないオーソドックスなボディデザインも、実際に構えることで全く異なるものであることが判りますが、オフセットやコンターの位置、ホーンの長さを含む絶妙なボディデザインによって、立奏時、座奏時共に35インチ・スケールの長さをほとんど感じさせない見事なバランスとなっております。さらに、低音弦部から高音弦に向かって徐々に薄く仕上げられた左右非対称のネックグリップは、ローポジションに集中した長時間の演奏から難度の高いソロプレイにおいても、演奏時の体への負担を最小限にとどめ、快適な演奏性を実現しています。

上質の素材を用い熟練の技術をもって削り組み立てることでこそ得られる“MTD”ならではの有機的で味わい深い音色は、演奏家に新たな表現の可能性をもたらし、インプロビゼーションにおいては自身も予期せぬ新たなフレーズを授けてくれることでしょう。


Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya