こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
“ベース”という楽器は、音抜けや演奏性、ノイズといった機能面においてはシビアに評価が下される楽器ですが、その反面“ベース”パート本来の役割を果たしてさえいれば、形状やスタイル、弦の数にいたるまで特に制約は無く、コントラバスから5弦や6弦といった多弦ソリッド・ベース、シンセベースのような弦楽器でなくとも許容される自由度の高いジャンルと言えます。そんな個性的なベースの中でも、「アコースティカルなサウンド」をテーマに造られたエレクトリック・ベースでは、ユニークなデザインや構造を持った楽器が特に多く、製作者の個性や想像力、そして技量までもが、顕著に表れるようです。今月のコレクションでは、道具としての機能性と安定感を最優先におき、シンプルに纏め上げられた、「正統派」とも言えるフレットレスベースの一つの完成形をご紹介致します。
ニューヨークのウッドストックに工房を構える“Veillette Guitars”(ヴィエレッテ・ギターズ)は、かつてハーヴィー・シトロンと共に“Veillette-Citron Guitars”を立ち上げ、90年代には、スチュワート・スペクターやマイケル・トバイアスと共に数々の楽器のデザインを手掛けてきた経験を持つベテラン・ルシアー/Joe Veillette(ジョー・ヴィエレッテ)氏と、才能溢れる若きビルダー/Martin Keith(マーティン・キース)の2人の職人によってハンドメイドで製作されています。彼らが製作したバリトン12弦ギターなどは、Eddie Van Halen、Brad Whitford、Joe Perry、Billy Sheehan、Billy Gibbonsといったトップ・アーティストが使用していることでも知られています。
そんなヴィエレッテの最新モデルである本機「Arch Top」は、これまでに得た膨大なデータと、30年以上に亘る「アコースティック/エレクトリック」スタイルの研究の成果が集約されたモデルであり、アンサンブルでの実用性と操作性の高さといったエレクトリック・ベースの利点と、アップライト・ベースの低く温かみのあるサウンドを、34”スケール/全長100cmほどのコンパクトなフレットレス・ベースに凝縮しています。一般的に「アコースティック」をモチーフにした楽器にはあまり使われることの無いポプラ材を用いたホロウ・ボディは、ソリッドベース並みの質量を持たせることであえて倍音成分を抑え、音に透明感と程よいソリッド感を与えており、トップにカーブを描くスプルースの滑らかな曲線は、弾く者に豊かなアコースティック・トーンをイメージさせます。また機能面に関しても、インピーダンスの異なるマグネティック・ピックアップとピエゾを見事に調和させたブレンド・コントロールや、ユニークなダブテイル(※)の木製テールピースといったこれまでのスペックに加え、新たにアジャスタブル・ウッドブリッジの採用により、弦高調節までもが可能となりました。単にウッド・ベースのサウンドを模したものではなく、あくまでアンサンブルの中で活きる実用度の高いアコースティック・サウンドに仕上げている点は、ジョー自身が、職人としてだけでなくプロ・ベーシストとしての経験と優れた感覚を持ち合わせているからに他なりません。太く温かなアコースティック・サウンドから、時にはタイトでソリッドなベースラインまで、「アコースティカルなサウンド」をテーマにしながらも、実に幅広い設定を可能にした“Veillette Guitars”ならではの魅力が凝縮された一本です。

(※)ダブテイル:接着剤を使用せずに材同士をパズルのようにはめ込んで固定する指し物の継手の一種。
Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya