こんにちは。Bass Collectionベースフィッタの岡崎です。
楽器メーカーが特定のアーティストのために設計・開発したモデルは俗に“シグネチュアモデル”と呼ばれ、メーカーやアーティスト、そのグレードによって実に様々な楽器が発売されています。もしも全ての条件がきわめて高い次元で製作されたならば、想像もつかないような全く新しい楽器ができあがるにちがいありません。さて、このハイエンドベースの世界では、そんな“想像もつかないような楽器”を極めて高いクオリティをもって実現した人々が実在します。今月は、一流の職人と演奏家が試行錯誤を繰り返しながらに造り上げた、ユニークなシグネチュアモデルをご紹介致しましょう。
ポール&カーラ・ブレイ、ジョアン・ジルベルト、スタン・ゲッツ、アート・ファーマー、ゲイリー・バートン、ジョン・スコフィールド、パット・メセニー他、60年代初頭から現在までに数々の偉大なアーティスト等と共演し輝かしい実績を持つジャズ・ベースプレイヤー/Steve Swallow(スティーヴ・スワロウ)氏は、70年代にW.ベースからエレクトリックに転向して以降、銅製のピックを用い、ジャズギターを彷彿させる氏ならではの独特の奏法と共に独自の演奏スタイルを築き上げ、`99年に現在のトレードマークであるCitronの楽器との出会いにより、彼のスタイルは完全に唯一無二のものへと確立されました。
スワロウ氏の相棒である、ハービー・シトロン作の本機“AE5 Steve Swallow Signature”は、贅沢の極みと言える最上級のホンジュラス・マホガニーの塊をくり抜いて成形された3インチ厚の分厚いホロウ・ボディにXブレイシングを施したスプルースTOPを配し、同じく1ピースのマホガニー・ネックを独自のデタッチャブル・ジョイントで組み合わせることで、アコースティックならではの豊かな鳴りを最大限に引き出しており、スワロウ氏ならではの、聴く者の心に優しく語りかけるような、深みのあるアコースティック・トーンに大きく貢献しています。また、ボディのアッパーホーン内部に内蔵されたトレブル/ベース・コントロールと各弦のゲイン・トリムを擁するオリジナル・プリアンプ、各弦のオクターブ調節が可能なピエゾ・ピックアップ内蔵の画期的なブリッジ、滑らかなネック・グリップ、丁寧なフレッティング等、演奏家の目線で仕上げられたディテイルには手造りならではの誠実さを実感させられます。なお、本人所有機は、36インチ・スケール、弦間12.7mmに合わせたナロー・ネック仕様で、EQはトレブルがゼロ、ベースは10の位置に設定されていますが、当店よりオーダーした本機は、35インチ・スケール、弦間約18mmの仕様となっております。さらにEQを共に少しだけブーストした位置に設定することで、ピックはもちろんのこと、主に2フィンガー・スタイルにおいて快適な演奏性を確保しています。二人の偉大なアーティストが造り出した本物のアコースティック・ベース・サウンドをご堪能下さい。

Text by Kenji Okazaki, Bass Fitter / Bass Collection Shibuya