世界で唯一ロジャー・サドウスキーから“Sadowsky”の冠を付することを認めらた、“Sadowsky TYO”と、その工房を牽引するチーフ・ルシアー菊地嘉幸氏。今回は“Sadowsky”、そして“Sadowsky TYO”の、コンセプトから細部に渡る拘りまでを紐解くべく、ロックハウスイケベ池袋にてインタビューを慣行。非常に高いポテンシャルを見せ、全世界に向けてハイエンドなモデルを提供してきた“Sadowsky TYO”の、世界トップクラスの製作技術を誇る技術の原点から、その目で見据える未来まで、たっぷりと語って頂きました。

インタビュー:ロックハウスイケベ池袋
写真:Ikebe CREATIVE
 
“ロジャー・サドウスキー”とは。
Sadowskyブランドの創設者であるロジャー・サドウスキーは、アコースティックギターの製作に始まり、アコースティック、エレクトリックギターやベース、チェロ、ヴァイオリンなどさまざまな楽器のリペアやモディファイの経験を経て、1979年9月、顧客の多かったブロードウェイに遂に自身のショップをオープン。 主にニューヨークのスタジオミュージシャンなどを中心に、数々の楽器のリペアやカスタマイズを手掛けています。そしてウィル・リーやマーカス・ミラーといったトッププレイヤー達との出会いにより、その名を全世界に轟かすことになります。マーカスのトレードマークでもある、あの77年製のFenderジャズベースをモディファイしたのは有名な話ですね。

“弾き心地とか木工加工の精度となると、何十年も前から、
Sadowskyはその道のスペシャリストとしてやってきていますから。”
ーー菊地さんは普段どんな音楽を聴くのですか?
人からはよく、フュージョンとかジャズのような上品な音楽が好きって思われがちなのですが、実は全然そんなことなくて…(笑)。昔から好きなのはヘヴィメタルです。特にメロディックスピードメタルやシンフォニックメタルといった北欧系の音楽を好んで聴いています。Sadowsky TYOのクライアントはともかく、NYCのクライアントとは多分かけ離れていますよね(笑)。もちろん、勉強の意味ではジャズやフュージョンといった音楽もチェックしますけどね!

ーーでは、ご自身の好みを反映させたギターやベースを作ったことはないっていうことですか!?
元々、僕はSadowskyの木工精度の素晴らしさに魅せられたっていうのが弟子入りのきっかけだったんです。極端な話にはなりますが、ピックアップとかプリアンプっていうのは、あとでどうにでもなる部分でもありますから。例えば、「Sadowskyのピックアップのハーフトーンってきれいですよね」ってお褒めいただいても、僕自身ハーフトーン使いませんからね(笑)。このあたりの意見を求められても正直困っちゃうところはあります(笑)。ただ、弾き心地とか木工加工の精度となると話は別です。何十年も前から、Sadowskyはその道のスペシャリストとしてやってきていますから、この部分には自信を持っています。

ーー加工精度の話になると、Sadowskyの有名なエピソードに「ボルトを外してもボディとネックが外れない」っていうのがありますよね?
そうですね。たしかに、極限までボディとネックを合わせていました。「いました」というのには訳があって、実はあまりに極限まで合わせて作っていた為に、一時期、海外輸送の際など乱暴に扱われた時に、襟割れがたて続いたことがあったんです。ですから今は、タイトフィットでありながらも、襟割れなどのトラブルを回避するための木工の工夫を施しています。これはNYCもTYOもMetroも同様です。これによって、昔のように「ネックを持って振り回してもボディが外れない」ということはなくなりました。外から見ただけでは、昔と何ら変わりませんけどね。元々は、ボディとネックのセンタリングがずれないようにっていうのがこのタイトフィットの目的だったんですが、そのうち職人の意地みたいな話になってきちゃって(笑)。けれど、それで楽器が壊れてちゃ元も子もないですからね。実際、工夫をするようになってからは、ネックポケット周辺が破損する事例は、ほぼゼロになりました。

ーータイトフィットによって楽器のサウンドに変化は出るものですか?
これ、精度出せない人が言っちゃうとかっこ悪いんですが(笑)、ずっとやってきた僕としては、「そんなに変わらない」ような気がします。例えば、ネックポケットに10円玉が入っちゃうくらいの広い隙間が空いててもミュージシャンから高評価を得る楽器はたくさん存在します。この点から言えば、「変わらない」のかなと。ただ、緩くてもいいのか、というと話は別です。緩いということは振動が逃げている=ロスしているということですから、これはいけません。しかし、「パンパンでなければ音が悪くなるのか」と言えばそれも違う。最初にパンパンに作っても、木部の経年変化で隙間が生じることもありますが、だから音が悪くなっているかというと決してそんなことはない。つまり、タイトフィットそのものよりも、ボディ材の持つ音とか指板材が作り出す音、そして愛情をもって引き込んでもらった時間のほうが大きな違いを生み出すんじゃないか、と。僕としては、丁寧な仕事を追及して、楽器にそういう思いを込めることで自ずと作る楽器が良くなっていくんじゃないかと考えます。お客さんが他所の修理屋さんに持っていった時に、ボディとネックがボロンッて外れちゃったら音云々よりもそっちのほうが恥ずかしいっていうのもありますしね(笑)。

ーーTYOの木材はどのように仕入れているのですか?
トップ材は全てロジャー(Roger Sadowsky)から分けてもらっていますが、その他の材、アッシュ、アルダー、メイプルなどは日本国内で(とは言っても輸入材ですが)仕入れて、重量とタップトーンを基準に選んだものだけを使っています。それでも足りなくなった時はロジャーから分けてもらう時もあります。
   
仕入れた木材は定められた基準値から厳選し、加工を行っています。(※画像クリックで拡大)

ーー重量の具体的な基準はありますか?
ベースのボディを切り出したときに「2kg以下」というのが重さの基準です。後から空けるキャビティの大きさによっても差は出てきますが。この重量に収まり、かつタップトーンのいい材を探すのはなかなか苦労しますし、コストもかさみます。しかし、たとえ1本でも「はずれ」の楽器を作るわけにはいきません。材が良くない楽器は、あとからピックアップを変えたりしたところで良くはなりませんから。一人のお客様もガッカリさせたくありませんから、この点は決して妥協せずやっています。それに僕自身、現在の加工プロセスには満足していますから、あとはよい材さえあれば大丈夫、という思いです。だから僕は材にはうるさいです(笑)。
ロックハウス池袋の佐藤と菊池氏。。
ロックハウス池袋の佐藤と菊池氏。
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