
| 多くのビッグアーティストを手がけてきたPAエンジニア界の巨匠・安藤 清さん。 前回、安藤さんにより語られた、日本のコンサートPAの黎明期、そしてそのエピソード中に語られたリボンマイクロフォンの話。 そして今回、そこから広がる「マイクロフォン」の“古くて新しい”最新事情をお伺いすることが出来ました! PA界に革新を巻き起こす「匠」の技とは? じっくりご堪能下さい! | ||||||||||||
●双指向性の再発見
安藤氏:以下A) ところで、「リボンマイク」はRCA『44BX』に代表されるように表と裏があり、構造上どうしても「双指向性」なのですね。現在の「コンデンサーマイク」、SONYの『C37』や『C38』、最近のAKG『C414B』等に装備されている指向性切り替えスイッチには、「リボンマイク」の名残で「双指向性」が用意されていますよね。私の良く使用しているAudio-Technica社『AT4050』にも「双指向性」のスイッチが装備されています。
PowerRec:以下PR)そうですね、えー。。。 A) なかなか思いつきませんよね(笑)。 『パワーレック鍵盤堂』でマイクをご購入される方々も、機能として付いて来る「双指向性」には、ほとんど無関心だと思うのです。 ましてやPAの現場では「双指向性」は相当な厄介モノな訳です。マイクの後ろにモニターがあるとアウトな訳ですから。 そして私も、自分の記憶で過去に「双指向性」にスイッチを入れた事が一度も無かったのですよ(笑)20年間に一度もですよ(笑) この「双指向性」スイッチには、相当な「確信」が無いと触れないですよね。 ところが、少し前に私が伺った現場で、東京都とハバロフスクの姉妹都市関連イベントがハバロフスクで開催された際、現地のシステムの都合上、サイドモニターしか使えない会場がありました。その中で三味線の演目がありまして、三味線の収音用に『AT4050』を立てたのです。そして、その方がたまたま「モニター」からの音量を非常に要求される方だったのですね。そこで、私は迷わず『AT4050』の「双指向性」にスイッチを入れました。
もちろんモニターは、一発でOKでした。 PR) それは、一体何が起きたのでしょうか? A) 「双指向性」というのはその“8の字”のパターンを見て頂くと分かる通り、両面から入ってくる音を「表面がプラス、裏面がマイナス」と考えると、“横から”の音はキャンセルされる、つまりゼロになるのです。 「無指向性」はもちろん、「単一指向性」でも横からの音は入ってくるのですね。 ところが、「双指向性」であれば横からの音はキャンセルされますので、サイドモニターがいとも簡単に返せたのですよ。 PR) なるほど!サイドモニターには「双指向性」が有効だったのですね!
A) 「もちろん、マイクの裏側に別のモニタースピーカーがある場合は無効ですが(笑)。 そしてもちろん、この「双指向性」はサイドモニターを返す事が目的ではなく、「リボンマイクの名残」として残っているのです。例えば今でも、MSステレオのマイキングでは「双指向性」が使用されます。しかしながら、MSステレオもあまり一般的では無いですよね。 そして先程の様に、実際の現場でこの「双指向性」を使う際には、相当な「確信」めいた物が無いと決して使わない訳です。そして、その「確信」めいた物は、音をイメージとして持っていないと出て来ないのですね。 私は、先でお話した通り、「双指向性」の音を現場で聞いていた最後の世代でしたので、「双指向性」の音のイメージも体に残っていたのですね。 そしてその時の一件は、私にとって、改めて与えられた「双指向性」のマイクセッティングの勉強をする機会、というべきでしょうか。 PR) 「双指向性」の“再発見”ですね。これは、他のアプリケーションにも応用が利きそうですね。 ●双指向性の応用A) その通りです。それ以降、他のアプリケーションでも「双指向性」のセッティングを応用実践しています。 例えば、ドラムのオーバーヘッドに『AT4050』をセッティングし、「双指向性」へスイッチを入れて使用します。すると、ドラムセットの隣に大音量のベースが来ても、横からの音は事前にキャンセルされますので、「無指向性」や「単一指向性」でセッティングした時の様に、“せっかくバランスの良いドラムのトータル音が入っているのに、「カブリのベースの音」をカットする為にハイパスを入れなければならない”、ということから開放されるのです。 また、昨今の大きな会場では、スピーカーもラインアレイになり、空間にもの凄く大きな音が「浮遊」しているのですが、その様なシチュエーションでも、オーバーヘッドに「双指向性」を利用する事で、横から進入してくる「浮遊する巨大な音」から逃れる事が出来るのです。
PR) 目的の音を狙う為の、「双指向性」の応用ですね! ドラム以外の楽器を「双指向性」でマイキングされる事はありますか? A) ギターアンプでも使用しました。 私がステージで「双指向性」を使う理由は、「横からの音をキャンセルする」目的以外に、「求めているサウンドに集中できる」、という意味合いも強いのですね。 「双指向性」の“8の字”パターンでは、「狙っている物に対するフォーカスが狭い」という特性があり、それにより、狙ったサウンドに“力”が与えられるようになるのです。 例えば「双指向性」は、マーシャルの4発のドライバーのうちの1発だけを狙いたい、という時にも効果を発揮するのです。狭いエリアを集中して狙い易いのですね。 そして「双指向性」には、「単一指向性」には無い、独特の“近接効果”もあり、それをOnにしたりOffにしたりしてコントロールすることで、ギターアンプの音色の演出もスムースで、かつ音色的にも非常に相性が良いですね。 PR) ここまでくると、まさに“「双指向性」のススメ”、ですね! A) そう、恐るべし「双指向性」です(笑)。20年間の封印はいったい何だったのか、という(笑)。 そしてギターアンプに関しては、例えば12インチのマーシャルでは、ドライバー・ユニットが前後に1cm位動きますので、『44BX』の様なリボンマイクでは、到底Onマイクに耐えられないのですね。 そうすると『AT4050』の様な、耐入力性の高い、そして感度の高いコンデンサーマイクで、更に「双指向性」の理論を応用する事で、ギターアンプのサウンドメイクに新たな可能性が見出せるのです。
A) まったくその通りです。 しかしながら、元来、PA業界では、ギターアンプに『AT4050』の様な高価なマイクが使われることは、ほとんど無いのですね。 その理由として、もし仮にPAの現場において数本の『AT4050』が用意されていたとしても、まず最初に高価なマイクが使われる楽器は「ピアノ」なのですね。 お客様が聴いて音の良し悪しが解りやすい楽器が「ピアノ」なのです。加えて、客席からもマイクがよく見えていますし。 その次が、「ドラムのオーバーヘッド」です。 その順序で行くと、「ギターアンプ」に本数の少ない高価なマイクが使われることはほとんど無いのですね。「『SM57』でいいか」となる訳です(笑)。 私は、“たまたま”高価な『AT4050』をギターアンプに使う機会に恵まれたわけです。 そして、「双指向性」との再会により、音の輪郭、スケール感が増した、より良質なギターアンプ・サウンドを得る機会に恵まれたのです。。 次回も楽器へのマイキングの「技」をお伺いします! |
![]() |
プロフィール |
| 安藤 清(あんどう きよし) SRエンジニア 1955年8月5日生まれ 1973年 株式会社 東京音響通信研究所 入社 マイケルフランクス・シャーリーバッシー・しばたはつみ・因幡あきら などを担当。1979年退社後ツイスト・チャゲ&飛鳥・プリンセスプリンセス・美空ひばり・島倉千代子・高橋真梨子・MISIA 現在AI。 |
|
■当店推奨・双指向性が選べるコンデンサー・マイクロフォン一覧■ | |||
|
Audio-Technica AT4050 |
AKG
C414B-XLS |
NEUMANN TLM67 |
NEUMANN U87Ai |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
| 欧米でも多数の愛用者を誇る、世界が認めた国産リファレンス・マイクロフォン。色付けの少ないフラットな特性が、音源の持つ魅力をそのまま受け止めます。 | 大人気スタジオ定番モデル。先代まで脈々と受け継がれてきたオールラウンドなナチュラル・テイストはそのままに、更なるノイズ対策を強化。 | ノイマン社新定番マイク。名機 「U67」のサウンドを最新の回路設計により、真空管を使用すること無く再現。ボーカルのみならず、楽器のレコーディングでも高い評価を得ています。 | 永きに渡りエンジニア達から愛され続けてきた"ナチュラル&スムース"。最も信頼のおけるレコーディング・マイクロフォンとして世界中のスタジオで使用されている"世界標準"。 |
|
BLUE KIWI |
JZ Microphones Black Hole BH-1 |
Milab DC-196 |
M-AUDIO SPUTNIK |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
| BLUEソリッドステート・ラインの最上位モデル。明瞭感の高いサウンドで、ボーカルやアコースティック楽器等々あらゆる音を生き生きと再現します。 | 人目惹くその造形美に秘められた、名工の手による伝統と革新。高い評価を得ているスムースかつ伸びやかなサウンドが、レコーディング現場で最良の結果を残します。 | 同社伝統の独特な形状のカプセルを有する、小型ボディー/ラージダイアフラムモデル。素材を生かすナチュラル・サウンドは、ボーカル、アコースティック楽器や管楽器などの収音に最適です。 | クラシックな真空管デザインに基づき、軍用グレード真空管に3ミクロンの極薄ダイアフラムを搭載。高級マイクロフォンさながらの豊かでクラシックなサウンドを実現します。 |
| ※エピソード1 安藤さん) ちなみに、現在のツインダイアフラムのコンデンサーマイクは電気回路で「双指向性」のパターンを作り出していますので、本当の意味での「双指向性」はリボンマイクだけなのですね。
| ||
| ※エピソード2 安藤さん) 例えば、昨今のステージ上では、イヤモニは除いて、モニタースピーカーからの音がどんどん大きくなる傾向にあるのです。 そうすると、「無指向性」のマイクでは他の音を拾いやすいとか、「単一指向」も「スーパーカーディオイド」にしなければいけないとか、そういった諸々の問題が出て来ているのです。ところが、先程の「双指向性」の“8の字の理論”では、録りたい音はマイク正面にありつつ “横からの音”がキャンセルされていますので、“ピンポイントに音を狙いやすい”、というもうひとつの利点が生じるのです。 PR) なるほど!意外な事実ですね。
| ||
※エピソード3 安藤さん) 実は、パーソナル・ユースの方が、マイクには断然こだわることが出来るのです。現場で要求されるマイクのクオリティーには、例えば、耐久性の面での課題があります。 ツアーのPAともなると、機材用トラックは1年を通していろんな場所を訪れます。 例えば、極寒の中をトラックに載せられ、運ばれてきたマイクは、暖かい会場に着くと直ぐに「汗をかく」のです。びっくりするぐらいびっしょりと(笑)。PAマイクに大口径のダイアフラムを選び難い理由もそこにあるのです。そして高価なマイクも(笑)。 昔の『AKG C451』の様な仕様(注:プリアンプ部である本体とカプセルを着脱交換可能。指向性のバリエーションも存在しました。)であれば、予備の「交換カプセル」を用意しておくことも出来たのですが、大口径ではそれも出来ませんし。 また、もうひとつの課題として、会社がマイクロフォンをセレクトするとなると、会社の方針に則って、会社が運営しやすいラインナップ、例えばSHURE『SM58』、『SM57』 に代表されるような定番的マイクが優先されるのですね。そしてもちろん予算の壁も出てきます(笑)。 上記の様な理由から、マイクに関しては、個人で選ばれる方が良いマイクをセレクトできるのです(笑)。 私もちょっと特殊なマイクロフォンや特別なマイクロフォンは“個人で”所有しています(笑)。 PAエンジニアとはいえ、20年経っても会社の組織にいる限りは、ツアーのアーティストが手持ちで持ち込んだマイクロフォンを聞く、というような機会に恵まれない限り、会社の手持ちラインナップ以外のマイクを聞く機会も無いのです。 スタジオのエンジニアにしても同様で、そのスタジオのライブラリー以外のマイクを聞くことはそうそう無いのですね。
PR) 恐れ入ります(笑)
|