2015/10/28

ケニア・ルオの伝統弦楽器『ニャティティ』
現地では男性しか扱うことを許されないこの伝統楽器の世界初の女性奏者となるAnyangoさん。
今回はニャティティによるインストゥルメンタル・アルバム"Savanna"のリリースに伴い、東京・ヤマハ銀座スタジオにて行われたリリースイベントにAntelope Audio製品を使用したライブレコーディングが行われるということで、今回ライブ会場にパワーレックスタッフ満井が突撃して参りました!
100人限定のイベントということもあり客席は着席用の椅子も用意され、ゆったりとイベントを堪能できるスタイル。
対してステージはパーカッション、ウッドベース&エレキベース、ヴァイオリン、そしてニャティティという珍しい編成、更にはライブレコーディングという事もあってステージ上ではあまり見慣れない光景に期待が高まる。
イベントスタート
美しくも独特な音色のニャティティとホールに響く魅惑的なAnyangoさん歌によりイベントが始まった。
ベーシックな楽器は一通り見てきたと思うが、今回の目玉にもなりうる"ニャティティ"という楽器のルックス、音色、演奏スタイルには驚かされた。
低い姿勢で座るように演奏するスタイルと思えば、スタンディングによりタップダンスのように足でリズムを提示しながらニャティティによるグルーブを混ぜ、ダンサブルなサウンドも作り出す。
そのためか地面すれすれにセッティングされたマイクがとても印象的に映る。
ライブレコーディングも踏まえたイベント。
メンバーにも普段と違った緊張もあったかもしれないが、そんな事を気にしているようには見えないアットホームな雰囲気と演奏者が作り出す居心地の良い会場、さらに演奏技術の高さ、楽曲の世界観、それを支える素晴らしいゲストミュージシャン。
多くの方が魅了されていたのは、1曲1曲が終わるごとに興る歓声から伝わってくる。
Antelope Audio『Zen Studio』を用いた同期演奏、ルーパーを用いたフレーズ作り等現代的かつ即興的なアプローチも印象的で民族楽器をただ用いたという枠ではない、しっかりとしたAnyangoさん本人の技量、人間性と、観客までふまえたイベント演奏者による感情や感性の中で作られた素晴らしいイベント内容だった。
この一連の内容が果たしてAntelope Audio製品によりどう集音、そして完成形となるか非常に楽しみである。

塩田哲嗣×Antelope Audio
~エンジニアとして語る今の現場レコーディングのあり方~

今回のイベントでベーシスト兼ライブレコーディングを担当した塩田哲嗣さん。
Anyangoさんのニューアルバム"Savanna"のco-producerを務め、Antelope Audio製品をライブレコーディングに取り入れた経緯、魅力、録音のシステムについてインタビューさせて頂きました。
POWER REC(以下PR):
今回使用しているシステムを教えて下さい。
塩田:
PAから送ってきた回線がアナログ回線だった為、まずPA卓送りと分岐したマルチトラックをAntelope Audio MP32(32ch mic pre amp)に接続、Antelope Orion32インターフェイスを通してMac Book Pro内のNuendo Liveで録音。クロック外れのノイズなどを回避する為に念のためAntelope TrinityでクロックソースをOrion32に送ってます。こちらのMic群はPA幅野さんのチョイスのまま。録音用Mic群にAEA Ribbon mic(N8,N22,R88mk2)、Earthworks QTC1をステレオイメージに、センターイメージをDPA mic(SC4060, VO4099U, VO4099B, d:facto II)、Neumann U87を使用。さらにDVD撮影で真ん中に録音Micを立てられないリスクを補強する為に、ショットガンマイクDPA 4017B。こちらはProTools HDX Mac ProでApogee Symphonyで録音。Mic PreampにNEVE 1272、GML、Brent Averill Vintage API 312、API 512c、NEVE 1073LB、Toneflake NV73、Grace M501を使用しています。
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今回のライブレコーディングでOrion32とMP32を使用したのはなぜですか?
塩田:
PAがMADI対応のデジタル卓ではなくアナログだったので、PA用だけで24ch分のアナログ回線を録音するには24ch以上のMic Preamp&インターフェイス(A/D)が必要だった。あとバックトラックとの同期ものトラック再生にAntelope Audio Zen Studioを使用してたのですが、そういったライン入力もののトラックや楽器からの回線の録音にMP32だとソフト内でMic/Lineの切り替えが簡単に出来るので、DIが要りません。勿論音質、S/N比も含めて考慮した上で、MP32とOrion32のコンビネーションがベストだと判断しました。
ミュージシャン自身によるPro Toolsでのマルチバックトラック再生には、その音質とポータブルさ、ステージ上の見栄えも含めてAntelope Audio『Zen Studio』は今やかかせない存在です。
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今回のライブレコーディングのサンプリングレートはいくつですか?
塩田:
今回はDVD用の録音という事で、48kHz/32bit floatでの録音です。96kHzも考慮に入れましたが、DVDのマスターはどちらにしても48kHzになるので、コンバートする必要が無い=音が良いという理由でのチョイス。録音時に機材が止まる等のリスクの回避もあります。32bit floatでの設定はヘッドルームが広がるので、演奏時の突然のピークオーバーゲインへのリスク回避には良いという判断ですね。
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近年はCDの売り上げが減り、ダウンロード販売が当たり前になってきている中、フェスやライブはどこも力を入れており、そのライブ演奏をレコーディングする事が定番化してきていますが、今回のレコーディングは音源化する為ですか?
塩田:
今回はアーティストAnyangoのDVD(ライブ映像作品)の為の録音です。ただせっかくなんでPA卓のラインのみの音・アンビエントではなく、スタジオレコーディングのクオリティを取り入れたくて試行錯誤しました。
海外ではSnarky Puppy(YouTubeを中心としたライブ映像でのプロモーションでグラミー賞を受賞)を始め、ライブ録音&映像をハイクオリティで残す事を、プロモーションという意味だけでなく、バンドの音楽性と直結したクオリティとして認識している人達が増えています。Anyangoを含めたインプロビゼーション(即興演奏)を重視するアーティストには、とても重要なチャレンジです。より良いもの、よりハイクオリティなものをオーディエンスに届けたいという心意気、姿勢(attitude)は、確実にオーディエンスに響くと思いますし、従来のやり方の枠内でプロダクトを制作するのではなく、新しい試み、ちゃんと手間をかけていく事などがとても大事だと思います。
いつのどんな時代であってもちゃんと美味い料理を作れば良い訳で、それが本当に美味いものなら、みんな黙ってないでしょうからね。
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一般のリスナーはMP3等の圧縮された音楽を聴くのが当たり前になっていますが、それでも96kHzや192kHzでレコーディングする利点はどこでしょうか?
塩田:
まずその録音が最終的にどのフォーマットでリスナーに届けられるのか?がとても大事だと思います。
入り口と出口が同じ、若しくはそれに近いフォーマットでという事ですね。
ご存知の通りCDは16bit/44.1kHzのRed bookですし、映像作品の殆どは(タイムコードとのシンクを考慮して)48kHzです。ここで大事なのはUp若しくはDownコンバートする際に起こるリスク(音質劣化など)で、理論上は44.1kHzに落とすなら88.2kHz、48kHzに落とすなら96kHzという割り切れる数字がベストとされています。
ハイレゾ・ハイサンプルレートで録音するメリットは、編集時、mixやマスタリング、ノイズリダクションを含めたエディット作業をする際に、録音の解像度が高い方がより高精度におこなえるというのが一番のポイントでしょう。単純に音のコントロールがしやすくなります。
2つめの理由はダイナミクスレンジです。ライブ録音においては、先にも述べた通り、想像を超える音量、ピークオーバーが出る事が多々あります。逆に小さすぎる音の場合もある訳です。そういった幅のあるダイナミクスレンジをフォローするにはハイビット、ハイサンプルレートが有利です。
3つめの理由は音が良いままリスナーに届ける機会があるという事です。ハイレゾ配信を含めて、新しいファイルフォーマットでリスナーが聴くという選択肢はこれからもっと増えて行くでしょうし、それは音楽プロダクトとしてとても重要な選択肢の一つだと思います。
4つめはその音を未来に残すという事です。この先、どんな高音質のフォーマットが開発されるか判りません。そういった次の時代が来た時としても、その時の新しいフォーマットに変換するのに問題が無い高いクオリティでまず"音"を残す事。それは音楽家としても、録音エンジニアとしても、アーティストとしても一つの使命ではないでしょうか?
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ニューリリースの音源の録音から今回のライブまで、Zen Studioを通して使用されたとの事ですが、Zen Studioを使用したメリットはありますか。
塩田:
Zen Studioの素晴らしさは、そのコンパクトなボディに、ハイクオリティな録音に必要な機材、機能をバランス良く装備している事かと思います。誰でも手軽にプロフェッショナルな録音クオリティをあらゆる場所でチャレンジ出来る。まさに夢のデバイスですね。
録音エンジニアだけでなく、ミュージシャン、一般の人にも気軽に使える所も魅力だと思います。デザインも素敵ですよね。
昔でいうラジオカセットやウォークマンの感覚で、超一流の録音コンソールが持ち歩けちゃうんです。凄い時代ですよね?
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Anyangoさんのレコーディングはどのようなアプローチで録音をこころみましたか。
具体的なマイクの選定、マイキングなどのこだわりの点等もあれば教えて下さい。
塩田:
昨今はYouTubeなど映像コンテンツの中に、米国のSnarky Puppyの様なライブパフォーマンスをオーディエンスに見せつけながら、観客にヘッドフォンをつけさけたり高価な録音Micを立ててスタジオレコーディングクオリティを提供するバンド()や、Duty Loopsの様にハイクオリティな録音にライブ映像を付けて配信する事で世界的な評価を得たバンド()が出て来たり、ライブ録音だからといって、以前の様に音に妥協したり録音機材に手を抜いたりする一昔前のライブレコーディングのやり方とは一線を画した新しい音楽配信形態が、ビジネスとしても好評価(Snarky Puppyはグラミー賞受賞、Duty LoopsはUniversalからの世界メジャーデビュー)を得るというトレンドが出て来て、定着し始めた時代です。
今回AnyangoのDVD作品を制作するにあたって、そういった世界の第一線のトレンド、ムーブメントにチャレンジ出来るかも?というモチベーションを元に、通常のライブ用Micアナログ回線はMP32のMic Pre-ampを通じてOrion32のインターフェイス、ラップトップやNaitive環境でも安定性の高いNuendoをDAWに選択。更にアンビエントと空間性やステレオイメージ、Vocalとニャティティというライブ環境で録音するのが難しいにもかかわらず、美しいアコースティックな音色を持つ声&弦楽器を、AEAのリボンマイク、DPAのコンデンサーマイク、Neumann U87などの録音用Micに用い、NEVE1272、API、GRACE、GMLなどの高級ビンテージマイクプリアンプをふんだんに使って、こちらはProTools HDXで録音しました。
今回のこだわりはその録音クオリティそのものです。僕らミュージシャン、アーティストのレスポンシィビリティ(責任)と生きている価値は、1mmでも良い音をオーディエンスに届ける事、それで感動させる事=音楽ですからね。従来のPA卓からの回線をただmixした様なチープな音と、SM58の様な一般的すぎるビジュアルのMicを見て、"古い、かっこ悪い、ダサい"と普段から思っている訳ですから、なおさら燃えましたよ。
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塩田さんご自身が使ってみて感じたAntelope製品の感想はいかがでしょうか?
塩田:
Antelopeは、まさしく録音スタジオのコンソールを外でも気楽に使える様に、更に言えば、誰でもより良質な音を世の中にプレゼンテーション出来る、ポータビリティとハイクオリティを兼ね備えたコンセプト、素晴らしい製品だと思います。Antelopeは、これからもより多くの奇抜なアイディアでその方向性を押し進める事でしょう。実際にAntelope製品を使った人なら、僕の言葉の意味がすぐに判ると思いますよ。
先日、AES2015で発表された『Orion32+』『Orion Studio』。
今回の塩田さんのインタビューでもあるように今後の音楽市場ではよりライブ主義が予想され、各種フェスや、またはYouTubeのようなインターネット媒体でもより高画質、高音質なものが求められる時代がきています。
32チャンネルAD/DA、新たにThunderbolt、MADI、USB等の接続が可能。1Uサイズの『Orion32+』12マイクプリアンプ搭載、Thunderbolt経由で32チャンネル、USB経由で24チャンネルの入力が可能、柔軟性の高いルーティングを兼ね備えた自宅スタジオなどに最適なモデル『Orion Studio』新たなAntelope Audioが発売する2製品には自然と注目が高まるのではないでしょうか。
これにより更なる盛り上がりが予想されるAntelope Audioの世界を是非体験してみて下さい。

プロフィール

Anyango (アニャンゴ)

東京生まれ。アフリカの音楽に魅了され、単身ケニア奥地の村で修業し、現地でも限られた男性だけに演奏が許されているニャティティの世界初の女性奏者となる。
日本国内だけでなく、アフリカ、ヨーロッパなどでも広く演奏活動を行っている。
2010年8月、日本で一番大きな野外ロックフェスティバルであ るFUJI ROCKに出演し、ワールドミュージック部門のベストアクトに選ばれる。
2011年、テレビ朝日「徹子の部屋」に出演。2012年、『アニャンゴの新夢を つかむ法則』を出版。2013年、ドイツ・イタリア・フランス・ケニア・アメリカにてワールドツアー。
10月、ミニアルバム『ALEGO』~ニャティティの故郷~をリリース。テレビ東京「CrossRoad」に出演。12月、『翼はニャティティ舞台は地球』(学芸みらい社)を出版。
2014年、フランス、アメリカ、ミャンマー、ケニア、ウガンダ等にてライブ公演。5枚目のソロアルバム「Kilimanjaro」をリリース。
日本ケニア文化親善大使。2015年10月、6枚目のソロアルバム「Savanna」をリリース。
Anyangoとはルオ語で、「午前中に生まれた女の子」という意味。
http://anyango.com/

塩田哲嗣

1992年頃からベーシストとして数多くのSession&録音に参加。1996年ニューオリンズで演奏活動。1997年帰国後、大坂昌彦 (Dr)などのクループで活躍。
2001年ニューヨークに再渡米。12年間のアメリカを拠点とした活動を開始する。2003年東京スカパラダイスオーケストラのNARGOと"SFKUaNK!!"を結成。
全国bluenoteツアーやクアトロツアー等、精力的な活動を展開する。2005年よりプロデュースも本格的に開始し、NY在住中Vocalの"Bei Xu"をプロデュース。
iTunes Musicなどのヒットチャートで1位を獲得。以降、数多くのプロデュース作品をリリースし続けている。
2010年ボストンのバークレー音楽大学に入学、 MP&E (ミュージックプロダクション&デザイン)とPerformanceのDual Majorで2014年5月に卒業。
2014年6月より日本に活動拠点を戻し、ミュージシャン&プロデューサー&録音エンジニアとして活躍中。今作"Savanna"ではco-producerを務めた。
今回のイベントはニャティティ、Anyangoさん、さらに、ゲストヴァイオリニスト・金子飛鳥さん、パーカッショニスト・ラティール・シーさん、そしてベーシストに塩田哲嗣さんを向かえた4人編成。

http://anyango.com/live_schedule/index.php

Nyatiti

ニャティティは、ケニア・ルオの伝統弦楽器。もともとルオ民族の選ばれた男性だけが演奏することを許された神聖な楽器だった。
Anyangoこと向山恵理子は、単身ケニア奥地の電気も水道もない村に住み込みニャティティの修業をし、ニャティティの習得と演奏を許された世界初の女性となった。
ギターは外側に表面を向けて抱えて弾くが、ニャティティは表面を自分の体に向けて、楽器と向き合って弾く。演奏するときは、地面に置いて、自分も低い椅子に座って、身体とは少し離して弾く。右足首につけている鉄の鈴は「ガラ」、右足親指にはめている鉄の輪は「オドゥオンゴ」と呼ばれている。
ガラを鳴らし、オドゥオンゴをニャティティの木のへりにゴツゴツとあてて、リズムを生み出す。ヴォーカルとストリングス (弦楽器)とパーカッション (打楽器)の三つの仕 事を同時にこなさなければならない。
ニャティティは、別名「カンバナネ」ともいう。スワヒリ語でカンバ (糸) ナネ (8)。つまり、「8本の弦」という意味である。
大きさは、アコースティック ギターより2周りくらい小さなサイズで、胴の部分はイチジクなどの木をくりぬき、半球状になっている。半球の面の側には、牛の皮が張ってある。
弦は8本の釣り糸 (ナイロン弦)でできており、太さは三種類。昔は弦にメス牛のアキレス腱を使っていた。ビーンビーンと長く、渋く響く音の秘密は、サワリの部分。細い竹のようなもの (ヨシ)2本と木片が蜜蝋 (みつろう)で止めてある。
ルオの人たちにとって、「男性の生まれる時の4日間、亡くなってからの4日間」は特別な意味があるという。
ニャティティの弦の下4本は生まれる時の4日間を表し、上4本は亡くなった時の4日間を表している。この楽器がニャティティと呼ばれるのは、ルオ語がネイティブの人には、下から数えて2、3、4本目の弦を順に弾くと、「ニャ、ティ、ティ」と弦がしゃべっているように聞こえるからなのだそうだ。

"Savanna" リリース (CD)

Savannaを聴く。心のドアを開ける。Savannaを聴く。目を閉じる。息を深く吸い込み、音に体を委ねる。
ナイロビの雑踏、サバンナを行くエレファント、スコールの後の大地の芽吹き。フラミンゴ、沈んでいく夕陽、闇夜に浮かぶ巨大な満月。
そして魂が、自由な旅に出る。

品番:JOWI-008
販売元レーベル:JOWI music
価格:2,000円(税込)
発売:2015年10月18日(日)

使用機材

ORION 32

MP32

ZEN STUDIO

お問い合わせ

池部楽器店 パワーレック

tel.03-5456-8809

担当:宮永(ミヤナガ)、大倉(オオクラ)
power_rec@ikebe.co.jp
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