世界中の著名なレコーディングスタジオの写真を目にすると、必ず目に留まるのが独特の深い青色のパネルを持ったアウトボード。多くの場合それらの機材はエンジニアの手の届く特等席にレイアウトされていることが多く、その使用頻度の高さとエンジニアからの信頼の厚さを容易に感じることができます。

この青い機材の正体こそ、デンマークが誇るブランド「TUBE-TECH」。その名の通り、真空管を使ったハンド・メイドのアウトボードにこだわり続ける頑固な北欧のクラフトマンシップが息づく逸品です。

しかし、2007年のフランクフルト・ムジークメッセでちょっとした事件がありました。これまで徹底してハードウェアにこだわり、プラグイン化を頑なに拒み続けてきたTUBE-TECHの製品が、TCエレクトロニックのプラグインとして発表されたのです。
この真相と、同ブランドのこだわりを知るために、TUBE-TECHの創業者にして代表、そして全ての設計を手掛ける人物「ジョン・ピーターセン氏」にお会いして、話を聞くことに成功しました。
パワーレック:
(以下PR)
今日は、私たちのために時間を割いていただき、本当にありがとうございます。まず、私たちのショップをご覧ください(店舗の写真を手渡す)。私たちのショップではプロのエンジニアはもちろんですが、プロフェッショナル/アマチュアを問わず多くのミュージシャンに「より良い音」を提供すべく、厳選した商品を販売しています。今回は、そんな中でも人気の高いTUBE-TECH製品をより深く掘り下げて、その情報をお客様に提供することで、よりTUBE-TECH製品を多くのミュージシャンに使っていただくことができればと思い、こうしたインタビューをお願いしました。
J・ピーターセン氏:
(以下JP)
なるほど。それは嬉しいですね。
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ありがとうございます。ではまず、簡単な質問からはじめます。TUBE-TECHでは、何人のスタッフが働いているのですか?
JP:
会社に在籍しているスタッフは5人です。但し、製品の製造に関して外部の工場に委託している部分もありますので、実際はもう少し大勢が関わっています。
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なるほど。少数精鋭なメーカーなのですね。全ての製品の設計は貴方自身で行っているのですか?
JP:
はい。全ての回路は私の設計によるものです。最初に設計したものは『PE1A』でした。1985年のことです。
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PULTECタイプのイコライザーですね。
JP:
そうです。
画像提供:HEAVY MOON, INC.
画像提供:HEAVY MOON, INC.
どこのスタジオを訪れても、その姿を見かける印象的な青いパネル。
メッセ会場でも、現行モデルを多数展示。多くの来場者が真剣にそのサウンドをチェックしていました。
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その頃から一貫して、TUBE-TECHのパネルは印象的なブルーに塗装されていますね。この色を選んだ理由は何でしょう?
JP:
そうですね。この青色は明るすぎない、コンサバティブな印象を与えます。この深い青色は私の好きな色でもありますし、何と言うか、落ち着いた感じがしませんか?
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ええ、TUBE-TECHの青色はスタジオの機材の中でも一目でそれと判る特徴を持ちながら、落ち着いた高級感を持っていますね。
JP:
それがTUBE-TECHカラーなのです。
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話は変わりますが、市場には低価格な真空管機材が沢山出回っていますよね。それらは私にはただ単にサウンドを汚くしたり、S/N比を悪くしているだけの機材が残念ながら多い様に思えます。
JP:
その通り。殆どの製品はそうですね。私たちは、真空管から最良のサウンドを引き出す設計を常に心がけています。真空管本来のサウンドとは、決して「ファット」で「歪んだ」ものではありません。真空管回路はクリーンな音を出すことも、ノイズを低く抑えることも、ワイドな周波数特性を実現することも可能です。そうした真空管の特性を活かした製品を、私たちは生み出しているのです。
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なるほど。それでは、そうした優れた特性を設計する際のポイントなどはあるのでしょうか?
JP:
具体的にはトップシークレットなので答えられませんが(笑)、私たちが設計の際常に心がけていることは、可能な限りアクティブエレメントの数を少なく設計すること、言い換えれば、可能な限りシンプルな回路にまとめることです。例えば、コンプレッサーのCL-1Bのアクティブエレメントの数は・・・1、2、3・・・たったの4つです。ソリッドステートの回路では、1つのチップの中に無数の回路が詰まっているためこうした設計は困難です。あまりに複雑な経路を通る回路と、ストレートに信号が通り抜けるシンプルな回路。音が良いのはどちらかはもうお分かりですよね。これが、TUBE-TECHサウンドの秘密の一部分です。これ以上は秘密にさせてください(笑)
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(笑)了解しました。しかし、それだけでもお話していただき、ありがとうございます。
では、もう一つ。マイクプリアンプの『MP-1A』をはじめ、TUBE-TECHのマイクプリは非常に人気のある製品の一つです。このプリアンプを設計するにあたり、何かリファレンスにしているマイクはありますか?もしくは相性の良いマイクなどはありますか?
JP:
ありません。ご存知の様に、レコーディングに使用されるマイクロフォンは非常に多くの種類があり、その特性も様々です。何か特定のマイクに合わせて開発することは、現場での実用性を損なうことになります。逆に、先ほど申し上げた限りなくシンプルに、という設計ポリシーによって生まれた回路はそのままでどんなマイクにも対応できるのです。入力された音がそのまま出力されること。これがプリアンプに求められる大事な要素ですよね?
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なるほど。TUBE-TECHのマイクプリは、どんなマイクを繋いでもその持ち味を最大限に活かすことができる製品ということですね。
JP:
その通り!
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ところで、あちらのTCエレクトロニックのブースで、興味深いものを見つけました。貴方のコンプレッサー『CL-1B』が、何と『PowerCore』のプラグインとして立ち上がっていましたよね。貴方はこれまでソフトウェア・プラグインに懐疑的であったと聞いています。ついに、こうした製品をリリースする許可を与えた経緯についてお聞かせいただけますか?
JP:
私自身、長い間プラグインについては考えてきました。実際、これまで様々な会社が私にTUBE-TECH製品のプラグイン化に対するオファーを投げかけてきましたが、その度に私は「あー・・・」「はぁー・・・」と言ってやんわりと断り続けてきました(笑)。というのも、3~4年前のその時点では、技術的にも時期尚早だと考えていたのです。当時リリースされたプラグインの音を聴いても、私たちの製品が満足いく形で移植されることが期待できませんでした。
しかし、昨年のフランクフルト(ムジークメッセ)で、TCエレクトロニックのスタッフが再度プラグイン化の話を持ちかけてきました。TCとTUBE-TECHとは同じデンマークの会社でロケーションも近く、以前から付き合いはありましたし、彼らのギターエフェクトやプラグインを含むデジタル機器の素晴らしさはよく知っていました。そこで私はこう言ったのです。「よし、一度だけチャンスをやるよ。」と(笑)。
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(笑)そしてTCはそのチャンスをモノにした訳だったのですね。
JP:
しかし、それは簡単な話ではありませんでした。開発中のプラグインを何度もチェックして、その度に様々な注文を出しました。そのサウンドに関してはもちろん、パネルのデザインや色に関するまで(笑)、それはもうありとあらゆる方面で。開発は難航し、結果的に1年近く掛かってしまいました。
そしてメッセ前週の火曜日に、私は最後のチェックを行うことになっていました。彼らには事前に、次のようなことを伝えてありました:「この日のチェックで私がその音に納得すれば、メッセでの発表を許可しましょう。しかし、その音に納得しなければ、このプロジェクトは中止してください。リリースは許可できません」と。
自分が納得できない製品は世に出せませんし、TUBE-TECHの音に対する信頼も揺らいでしまいます。また開発に時間が掛かったこともあり、このメッセのタイミングを逃すともう後が無いとも思ったのです。
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なるほど。だからTCの新製品案内には『CL-1B』のプラグインが掲載されていなかったのですね。そんなギリギリの話だったとは・・・。
しかし、彼らのブースでは無事青いパネルのプラグインが立ち上がっており、音を聴くことができました。と、いうことは?
JP:
念入りにチェックした結果、そのプラグインは私たちの製品のサウンドに非常に近いものであると納得することができました。サウンドチェックを行ったスタジオのエンジニアも、「今まで聴いたプラグインの中でもベストな音を持っている」との感想を寄せてくれました。次の木曜日にプラグインを試した別のエンジニアも「これより音の良いプラグインは聴いたことがない!」と言いました。開発者の私が納得しただけでなく、現場のエンジニアにも喜んでもらえる製品であることの確信を持つことができたので、私はプラグインのリリースにOKを出したのです。
これにより、ユーザーはTUBE-TECHサウンドが必要な場合に2つの選択肢を得ることになります。プラグインは、トータル・リコールや物理的な点でメリットがあり、効率的な作業が求められる現場にとって大きな恩恵を与えてくれるでしょう。この調子で、私たちの他の製品のプラグイン化の計画も進行してはいますが、これもそのサウンド次第ですね(笑)。一方、これによりTUBE-TECHのハードウェア製品のメリットが無くなるわけでは決してありません。プラグインのサウンドはあくまで私たちが作った製品に「非常に近い」ものであって同じではありません。
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そうですね。私たちもTUBE-TECHを含め様々なハイエンド・アウトボードの音を聴く機会がありますが、その音が持つ情報量の多さはいつ聴いても感激します。プラグイン・ソフトウェアはまだハードウェアに適わないと思いますか?
JP:
「音質」という観点からみれば、ソフトウェアとハードウェアの選択肢がある中でソフトウェアを選ぶ理由はいつもネガティブなものばかりです(笑)。この傾向は、少なくともあと10年は変わらないでしょう。音の良い/悪いは一元化して判断することは難しいですが、ライブPAなどの現場では、ソフトウェアはレイテンシーの問題が存在します。
TC Powercoreのプラグインとして立ち上がった「TUBE-TECH CL1B」。メッセ2日目、TCブース内のMacintosh上で実際に立ち上げられ、ボーカルやドラム素材で試聴することができました。
TC PowerCoreシリーズ
CPUに負担を掛けず、高品位エフェクトプラグインを使用可能にするDSPプラットフォーム。そのDSPパワーを活かした、贅沢なエフェクト/シンセが各種付属します。
■PowerCore FireWire 生産完了
■PowerCore Compact 生産完了
■PowerCore PCI Mk2 生産完了
電源フレームRM-8にマウントされた3種類のモジュール。
真空管を駆動するための電圧は270Vに安定化されています。最大8基、多数の真空管を駆動するための大容量設計。
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ではTUBE-TECHはこれからも意欲的にハードウェアの製品開発を続けていく訳ですね。そこで、そちらに展示されている新製品『RM-8』についてお話を伺いたいと思います。そのコンセプトに、私は非常に興味を持ちました。
JP:
これはまだプロトタイプで、この前の月曜日からようやく電源を入れて動き始めたばかりの本当に新しい製品です。このままの仕様で何とか8月から9月頃には発売を開始したいと思っています。
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8つのスロットを持つ電源フレームと、そこに3種類のモジュールがマウントされていますね。パネルのレイアウトを見る限り、TUBE-TECHのこれまでの製品によく似ていますね。
JP:
その通り。基本的にマイクプリアンプは『MP-1A』、イコライザーは『PE-1C』、コンプレッサーは『CL-1B』をそのままモジュールタイプに変更したものです。単純に形といくつかのスイッチが異なるだけですね。同じ回路、同じキャパシター、同じ真空管、同じコイル・・・とにかく同じです。しかし、サウンドチェックを行ったスタジオのエンジニアは「音が少し違う」と感じた様です。
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音が違う?
JP:
ええ。しかし、それは「音が悪い」という訳ではありません。ただ、「違う」のです。
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同じ部品と回路で音が違うというと・・・やはり考えられるのは電源の違いなのでしょうか?
JP:
その可能性もあります。新しいモジュールは真空管の駆動電圧を270Vに安定化した状態でフレームからの電源供給を受けています。一方、『MP-1A』は・・・何Vだっけ(笑)?・・・中を見てみないと正確には答えられないけれど、とにかく少し異なっているはずです。その違いが出音に僅かな違いを生んでいるのかもしれません。とはいえ、どちらもTUBE-TECHの音ですよ(笑)!
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なるほど。深いですね。この電源フレームは、展示の8モジュール用以外のラインナップを発売する予定はありますか?
JP:
今のところはありません。
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そうですか。横置きで2chとか、4モジュール用とか、あれば嬉しいのですが・・・。
JP:
電源フレームは高価なため、バリエーションが作りにくい事情もあります。しかし、そうした要望もありますから将来的には実現するかもしれませんね。
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まずは8モジュールのシリーズから、ですね。今後のTUBE-TECHの新製品、期待しています!
最後に、何かメッセージを頂けますか?
JP:
日本でもTUBE-TECH製品が数多く使用されていることは私たちもよく知っています。TUBE-TECHの製品の販売に協力していただき、本当に感謝しています。これからも、TUBE-TECHをよろしく!
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こちらこそありがとうございます。今日は本当にありがとうございました!
ピーターセン氏は物静かで少しシャイな、非常に落ち着いた紳士でした。しかし、その柔らかな物腰とは裏腹に時折見せる、決して妥協を許さない頑固な職人としての姿勢に、TUBE-TECHの製品が持つ魅力の原点を感じることができました。
これからもハードウェアにこだわって魅力的な製品を生み出し続けるTUBE-TECH、そしてそのお墨付きを得て遂に世に出た、「TUBE-TECH公認」TC PowerCoreプラグインエフェクト。パワーレック鍵盤堂が自信を持ってオススメできる逸品です。
 
新製品・RM8をチェック!
写真右:
■PM1A
MP1Aを基にした、マイクプリアンプ。インピーダンス切替スイッチ、コース・ファインのゲインコントロールが特徴的。
写真下:
■EM1A
TUBE-TECHの原点とも言える、PULTECタイプのイコライザーPE1Cをベースにしたモジュール。
写真右下:
■CM1A
CL1Bを基にした、モノラル・コンプレッサー。ゲインリダクション/出力の両モードに対応したVUメーター装備。
■2007年秋頃発売予定!■
 

HI/LO+3MIDバンドの1chフルレンジ・イコライザー。

クリック式のコントロールを持つマスタリング用イコライザー。

マイクプリ/DI+イコライザー+コンプレッサーを凝縮。
SOLD

TUBE-TECHの原点、PULTECタイプ・イコライザー。
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超定番コンプ・CL1Bを徹底解剖!

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