内部に仮想的な「ピアノそのもの」の構造を持ち、「ハンマーの硬さ」「個々の弦のチューニング」「弦同士やフレームの共振」といった膨大な要素から瞬時にサウンドを「造り出す」、全く新しいピアノ「V-Piano」。
2009年2月24日、東京都四谷・紀尾井ホールにて、ローランド製デジタルピアノをフィーチャーしたコンサート「New Style Concert」が開催されました。折りしも1月のNAMM Showでこの「V-Piano」が発表された直後のタイミング。きっと「V-Piano」の音色を体験できるに違いない!
と、鍵盤堂スタッフ・安藤が会場に潜入!

まずはピンク色のドレスを身に纏った高橋多佳子さんが登場。
デジタル・グランドピアノの最高峰モデル「RG-7R」の前に座り、ショパンの「ワルツ1番」を奏でます。
一切のPAを介さない、RG-7Rの内蔵スピーカーから再生される音色はアコースティックかと見紛うばかりの艶やかな音色でホールに響き渡ります。
その外見、美しい音色。そしてワルシャワ仕込みのショパン演奏の第一人者が奏でる軽快なワルツ。

司会を務める「千住明」さんによる、「V-Piano」の紹介と様々な機能の解説の後で、今度は高橋さんが奏でた曲は、同じくショパンの「ノクターン」。
クラシックの名機を再現したプログラム「Vintage Piano」で、シンプルで美しいメロディが伸びやかに「歌い」ます。何より感動的だったのが「pp(ピアニッシモ)」の表現力。微細なタッチの違いで音量だけでなく、音色も自然な変化を生み出す音色は、打鍵の強さで波形を切り替えて対応しているPCM音源では再現が難しいところです。
第2部は、淡い水色のドレスに着替えて登場。「V-Piano」を使ってラヴェルの「夜のガスパール」より“オンディーヌ”を演奏。
「V-Piano」の魅力は往年から現代の名機の音色を再現するだけに留まりません。現実には物理的に実現不可能な構造の「夢のピアノ」の音色を生み出すことが出来るのです。この曲で使用された音色は、弦の材質を「銀の巻き線」に設定した「All Silver」。通常の銅の巻き線よりも煌びやかで透き通った音色はV-Pianoのいわば「看板」音色。
この音色は、美しい水の妖精と人間との悲恋を描いた「オンディーヌ」の世界にこれ以上無いほど美しくマッチ。高橋さんの繊細なタッチに呼応して、キラキラと輝く水の雫があたかもそこに存在しているかの様なファンタジックな世界が広がります。
最後は、再び「RG-7R」を使ってリストの難曲「ラ・カンパネラ」を披露。美しくシンプルなメロディラインとは裏腹に「リストが自身のテクニックを見せびらかすためとしか思えない(笑)」超絶技巧なフレーズが目にも留まらぬ速さで展開していきます。
それにつけても実感するのは、「V-Piano」の懐の深さ。
V-Pianoでクラシック・・・これは大いに「アリ」です!

続いては、あの名門「Blue Note」レーベルの「最年少リーダー作」リリースで注目を集める、若干23歳のジャズピアニスト「松永貴志」さんが登場。
司会の千住さんとの軽妙な絡みで「V-Piano」を紹介。「チューニング」「ハンマー・ハードネス」「クロス・レゾナンス」といった特徴的なパラメーターの変化を実演します。
演奏しながら調律や音色が変化していく様子は、あくまで自然で音楽的。「V-Piano」ならではの演奏表現の可能性を予感させます。続いて、「宿題からの現実逃避で作った」という、高校生でデビューした松永さんらしいエピソードを持つオリジナル曲「宿題」を、先程説明したペダルやパネル操作によるリアルタイムでの音色変化を交えながら「V-Piano」で演奏します。
音色は「All Silver」。
「(宿題)やだー!」という意味を持つ(笑)テーマの中で繰り返し出てくるフレーズのみ、ペダルでハンマー・ハードネス(ハンマーの硬さ)やアンビエンス(響き)を最大値に変化させて「ガツーン!!」と響き渡る「超硬質」な音!

かと思えばパネル上のロータリーエンコーダーをグルグル回して「クロス・レゾナンス」パラメーターをグングン上げていくと、音色は更に金属的な倍音を含んでいきます。
そして夜の報道番組のテーマ曲として、耳にされた方も多いはずの松永さんのオリジナル曲「Open Mind」。最初のテーマから豪快に展開していく疾走感で観客をグイグイ惹きつけます。
次に、神戸の夜景をイメージした静かな曲「神戸」。「ハンマー・ハードネス」を今度はグンと柔らかく変更し、柔らかな夜の闇、そして要所要所で硬質な音が出現し、キラキラした街の灯りを連想させます。
最後は「無機質オレンジ」。のっけから左手の高速アルペジオでテンションも最高潮。3本のペダルを両足でヒール&トゥ的な動きで様々なパラメーターをリアルタイム・コントロールしつつ、様々に形を変えるピアノの音色。
減衰中のコードに、「チューニング」をアサインしたペダルを断続的に踏む事で、これまで聴いたことが無い様な「チューニング・トレモロ(?)」が飛び出します。 そして、瞬時に元の端正な音色に戻り・・・ その荒々しく攻撃的な「All Silver」の音色は、さっき高橋さんが「オンディーヌ」を奏でた繊細なピアノと同じモデルだとは・・・!
そうです。他の多くの繊細な生楽器と同様に、「V-Piano」は弾き手のタッチ次第でその音色が変わるのです。そして、今回松永さんが提示してみせた「V-Piano」ならではの奏法。 ギターのライトハンド奏法。
ベースのスラップ奏法。何時の時代も、アーティストはその楽器の製作者の「想定外」の使い方を編み出して、新しい音楽を切り拓いてきました。ピアニストに新たなる可能性を提示する「V-Piano」によって、どんな音楽がこの先生まれてくるのか、実に楽しみではありませんか?

松永さんの演奏で、会場の興奮も頂点に達したところで、再び高橋さんが登場。二人でG・ガーシュウィンの名曲「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏します。 高橋さんがオーケストラパートを担当、そして松永さんがピアノパートを担当。そしてこの日、背景のスクリーンに「EDIROL P-10」等の機材を使い、幻想的な映像を次々に投影するVJ MASARUさん。予測不可能な音と映像が生まれる、3人のコラボレーション。
上品で雄大な「RG-7R」の演奏の上で、千変万化の音色で華麗に踊る「V-Piano」の音の渦。「線」をテーマにした映像を音に合わせて紡ぎだすVJ MASARUさんの映像も、スピード感を増していきます。未だかつて耳にしたことの無い、超アグレッシブなラプソディ・イン・ブルーです!

アンコールの拍手が鳴り止まぬ中、再び高橋さんと松永さんのお二人が登場。
高橋さんが演奏を始めたのは、有名なモーツアルトの「トルコ行進曲」。あくまで原曲通りに美しい旋律を「RG-7R」で奏でる高橋さんの音に、松永さんの「V-Piano」がジャジーなテンションコードを多用したJAZZアレンジ「トルコ行進曲」が重なります。
渾然一体となりつつも、明確な音色とタッチ、そしてリズムの違いがハッキリと聴き取れる非常に面白いパフォーマンス。松永さんのピアノに刺激され、高橋さんのピアノもスウィングします。 これにて大団円。クラシックとジャズ、そしてその融合。多彩な音楽を楽しみながら、「V-Piano」の持つ魅力を存分に満喫したコンサートでした。
今回素晴らしいパフォーマンスを披露して頂いたピアニストのお二人へのインタビューに成功しました!
クラシック・ピアニストとジャズ・ピアニスト。それぞれの立場でV-Pianoの魅力について語って頂きました!

●特にデジタルだから意識して弾き方を変える、という事は特に無いのですが、電子ピアノはタッチの強弱に対して、意図した以上の変化が出てしまうことがあるんですよね。それほど強く弾いたつもりでないのに「ポーン!」と前に出てきてしまう感じでしょうか。ですから、それだけ注意して、音が均一に響く様に心がけてはいますね。
■V-Piano以前の電子ピアノの限界を感じたことはありますか?
●従来の電子ピアノもとても素晴らしい製品だと思います。でも、本当に細かなことですがあえて挙げるとすれば、先程のリハーサルで感じたことなのですが、音の伸びがもうちょっと伸びて欲しいな、という感覚がちょっとあるんですよね。例えば、ショパンの「ノクターン」ならば、メロディラインの音と音の繋がりがより良いといいな、と思ったのです。でも、今回V-Pianoを演奏してみると、本当にアコースティックと同じ感覚で弾けますね。
■V-Pianoならではの音の作りこみ。理想のピアノに近づける。理想の音色というものはあるのですか?
●私は、煌びやかな音色が好きなんですね。ですから、V-Pianoで煌びやかで切れの良い感じの音で弾いてみたいな、と思いますね。
■煌びやかな、と言いますと銀の3本巻き弦のモデル「All Silver」ですね?
●ええ。その音色です。今回、ラヴェルの「オンディーヌ」を演奏するのですが、そのときにこの音色を使うんですよ(注:この日、「オンディーヌ」はRG-7Rで演奏する予定だったのですが、V-Pianoの「All Silver」の方が曲のイメージに合う、高橋さん本人の希望で急遽変更になりました)。
■こうした「新しい」V-Pianoならではの音色は、クラシックの演奏にも適しているのでしょうか?
●充分に使えると思いますね。例えば最初がバッハで次にモーツァルトでベートーベンで、後半がフランス音楽だったり・・・といったプログラムだったとしますね。本来、そうした様式ごとに音色って違うものなのですが、普通のアコースティックならば自分のタッチでそれをコントロールしていくしか無いんです。でも、V-Pianoを使えば「ベートーベンにはどっしりした音を」とか、後半は「ラヴェルだから煌びやかな音を」とか、あるいは「ムソルグスキーだからもの凄くパワフルな」とか・・・とういうのを試してみたいですね。 ピアノ自身の音も曲や時代背景に合わせてどんどん変えていく・・・そんなコンサートだったらお客様にとっても楽しいのではないでしょうか。
■お気に入りの音色はありますか?
●古い、調律がずれた感じのホンキートンクピアノの音色も凄く楽しいですね。そんなピアノで古き良き時代のアメリカの曲とか、チャップリンの映画音楽風の曲とか弾いてみたいですね。ちょっと遊び感覚ですけど。
■では、クラシック、たとえば高橋さんはショパンで有名な方ですが、そんなショパンの曲を弾くときにお薦めのV-Pianoの音色はありますか?
●そうですね。やっぱりショパンの場合はメロディラインの伸びやかさが大切な要素ですから、うーん、技術的な設定などはよく判らないので、これからいろいろ相談しながら作ってみたいですね。きっと素晴らしい設定ができると思います。
■クラシックピアニストとして、V-Pianoの印象をお願いします。
●とかくクラシックという世界は「○○はこうでなくてはいけない」的なお堅い部分があるじゃないですか。でも私はそんな殻をもっと打ち破っていかないといけないと思うんですよね。そういう意味ではV-Pianoという楽器で曲に合わせて音を作っていくことで、クラシックの楽曲が今まで以上に自由に弾けるのではないかな、と期待しています。
■V-Pianoを弾いた印象はいかがでしたか?
●JAZZの世界では、アコースティックでもデジタルでも、PAを通した音をモニターしているので、少なくともステージの上の音的には全く変わらない印象で演奏できました。
打鍵時の感触や、ハンマーの返り、といった手応えの部分は重要ですね。結構そうした手応えが返ってこない製品も多く存在しますが、V-Pianoはそうした部分がちゃんとしているんです。
■従来のサンプリング方式の電子ピアノと比べての感想をお聞かせ下さい。
●従来の電子ピアノの多くは、普通に「やっぱり電子ピアノの音だな」という印象を受けることも多いです。V-Pianoはその音の良さはもちろんですが、アコースティックピアノ以上に自分好みの音を作りこめる点、つまり一人一人のプレイヤーが、それぞれ自分の気に入った音を設定できる点が凄いと思いましたね。
■ズバリ、理想のピアノってありますか?
●うーん、どうでしょうね。結局のところ、「その人が弾きやすい」ピアノがそうではないでしょうか。スタインウェイのどのモデルが、という事ではなくて、状態や調律等も含む全ての要素が自分に合っているか合っていないか。鍵盤のタッチや返りといった物理的な面以外の、音自体の点で言えば、(波形を選んでEQやエフェクトを調整するだけの従来の電子ピアノと比べて)本当に細かく調節できるV-Pianoはそういった意味では理想に近いピアノなのかもしれませんね。
■気に入った音はありましたか?
●やっぱり「銀の3弦巻き」というモデルは、今までに聴いたことが無いピアノの音、という意味で気にいってますね。更に、クロスレゾナンスを100%近くまで上げると、もともと煌びやかな音が更に金属的な質感を帯びてくるので面白いですね。これは、普通のピアノでは絶対に出せない音色です。また、それとは逆に全部のパラメーターをマイナス方向に設定して、特にハンマーの硬さを極端に柔らかく設定すると、ソフトペダルを踏んでいる感覚の、新しい感じのソフトなピアノにもなります。この音が、というよりも「自由自在に音が変えられる」ことがV-Pianoの気に入っている点ですね。
■いわゆるバンド編成の中でのオススメのセッティングはありますか?
●Vintage、Vanguardのどちらの方向性でも問題ないと思いますよ。編成や曲の内容に合わせて、どんな場合でもピッタリの設定が見つかると思います。
■V-Pianoで演奏すると、今までの曲の弾き方も変わりますか?
●ええ。今までの曲も、V-Pianoで弾くことで新しい可能性を見出すことが出来ます。例えば、パラメーターを割り当てたペダルや、パネルに出ている3つのボタン(とダイヤル)を駆使すると、演奏中でもどんどん音色を変更できるんです。特定のフレーズだけ音を変えたり、展開に応じて音色を変えていくなど、演奏の幅が広がりますね。
■今後、V-Pianoならではの曲が出てくる可能性はありますか?
●そうですね。家にV-Pianoがあれば(笑)、V-Pianoの機能を活かした曲が掛けそうですね。
■レコーディングでも?
●V-Pianoを使える機会があれば、次のアルバムで是非!
■最後に、V-Pianoの魅力をお聞かせください。
●使い方は弾き手次第。弾き方次第でどこまでも伸びる可能性を秘めた楽器ですね。
例えばスローな曲のここ一番の場面でハンマー+アンビエンスで「ガーン!」とか、普通のピアノでは出来ないですからね。そんな、今までのピアノの固定概念を越える、デジタルだから出来る。そんな刺激的な楽器ですね!
高橋多佳子 (たかはし たかこ) ピアニスト
桐朋学園大学卒業後、国立ワルシャワ・ショパン音楽院大学院を最優秀で修了。第12回ショパン国際ピアノコンクール第5位入賞。日本とポーランドを拠点に演奏活動は全ヨーロッパに及ぶ。第22回日本ショパン協会賞受賞。CDは最新アルバム『ラフマニノフ/ソナタ第2番&ムソルグスキー/展覧会の絵』など全12タイトルをリリース。なかでも、ショパンの作品を時代ごとに取り上げた『ショパンの旅路』(全6イトル)シリーズは、その企画性と高い芸術性が話題を呼びロングセラーとなっている。最近では、ピアニスト宮谷理香との実力派ユニット<Duo Grace>としての活動や、「加山雄三 with 大友直人シンフォニック・コンサート」全国ツアーへの参加など、ますます意欲的な活動を展開している。
松永貴志 (まつなが たかし) ジャズ・ピアニスト/作曲家
2003年、若干17歳でメジャー・デビュー。翌年、全米およびヨーロッパ、アジア各国で発売された「STORM ZONE」で、米ブルーノート・レーベル65年の歴史上、最年少リーダー録音記録を樹立。第14回「出光音楽賞」受賞。05年、テレビ朝日系「報道ステーション」テーマ曲『オープン・マインド』を作曲・演奏。06年、サントリーホールにて故・岩城宏之氏指揮新日本フィルとガーシュウィン『ラプソディ・イン・ブルー』を共演、大絶賛される。07年、服部有吉氏、金聖響氏、東京フィル、大阪センチュリー響とともにシンフォニック・バレエ『ラプソディ・イン・ブルー』を全国で上演。08年、5thアルバム「地球は愛で浮かんでる」リリース。フジテレビ系「新報道2001」テーマ曲および挿入曲を作曲・演奏。
高橋 多佳子ウェブサイト
松永 貴志ウェブサイト

Roland V-Piano 