アコーディオンにも様々な種類が存在しますが、日本で一般的なのはピアノと同様の右手トレブル鍵盤と、指1本で様々なコードが押さえられる「ストラデラ・ベース」方式の左手ボタン。左手で伴奏、右手でメロディという明解さから、初心者の方にとっても手を出しやすいアコーディオンです。

一方で、こうした一般的なアコーディオンとは大きく異なる楽器も存在します。ピアノ鍵盤の代わりにずらりと並んだ「ボタン鍵盤」を持つ「クロマチック・アコーディオン」の魅力については、当店のWebサイトでも過去に何度も取り上げてきました。

そして今回、「クロマチック」に加えてもう一つ「フリーベース」というキーワードが登場します。アコーディオン奏者「神出高志」さんは、日本でも数少ないクロマチック&フリーベース・アコーディオン奏者。非常に奥深いその魅力と、上達の秘訣。アコーディオン奏者、その予備軍、そして「楽器」を嗜む全ての方に是非読んで頂きたい、スペシャル・インタビューです!
鍵盤堂:
 今日は、日本では数少ないクロマチック&フリーベース・アコーディオン奏者の神出高志さんに、アコーディオンのお話をお伺いしたいと思います。まずは、アコーディオンを始めた経緯についてお聞かせ頂けますか?


神出高志さん:
 はい。元々私はジャズ・ピアニストとして様々なバンドやセッションで演奏活動を行っていましたが、14~15年ほど前にアコーディオンを始めたのです。まだ日本のジャズ・ポピュラーミュージックにおいては殆どアコーディオンが認知されていなかった時代ですね。cobaさんもまだ本名で活動されていた頃です。その時、「アコーディオンでジャズをやれば面白いのでは?」と思ったのがきっかけですね。まずは通常のピアノ鍵盤/ストラデラ(スタンダード)・ベースのアコーディオンを手に入れて、遊び感覚で弾き始めました。特に師事する先生はおらず、独学でしたね。

鍵盤堂:
 鍵盤楽器奏者として、鍵盤楽器の延長としてアコーディオンを弾き始めたのですね。そこから現在のスタイルへはどういったきっかけや変遷があったのでしょうか?

フリーベース・・・左手ボタン部分がクロマチックアコーディオンの右手部分と同様の「単音」として演奏できるアコーディオン。ストラデラ・ベースとスイッチで切り替えられる機構は「コンバーター・システム」と呼ばれます。
神出さん:
 cobaさんのお父さんが昔ビクトリアアコーディオンの輸入をされており、そこでフリーベース・アコーディオンの存在を知りました。純粋にクラシック音楽を演奏するためのアコーディオン、という位置づけだったのですが、やっぱりここでも「このアコーディオンでジャズやポップスを弾けば・・・!」と思って傾倒していったんですよね。

鍵盤堂:
 人と違ったことをやりたいと。しかし、その段階ではまだピアノ鍵盤のアコーディオンを演奏されていたのですね。


神出さん:
 そうですね、ピアノ鍵盤でフリーベースのビクトリアを使って演奏していました。

鍵盤堂:
 では、いよいよクロマチック(ボタン式)への転向となるのですが・・・


神出さんが「出会ってしまった」運命のホーナー・モリノ。その詳細は後ほどじっくりご紹介します。
神出さん:
 このアコーディオン(1950年代のHOHNER MORINO)に出会ってしまったのが全ての原因ですね。とにかく音が全然違うのです。この音を弾きたかったから、そしてこの楽器がボタン式だったから転向を決めたのです。

鍵盤堂:
 これまでのスタイルを捨ててまで弾きたくなる楽器との出会い。素晴らしいですね!でも、やはり苦労しませんでしたか?


神出さん:
 ええ、右手の鍵盤はもちろん、折角これまでに習得した左手のフリーベースの配列もこれまでとは全然違いますから、最初は本当に苦労しましたね。でも、ボタン式のフリーベースって、左右のボタンが同じ配列なんですよね。だから一旦覚えてしまえば凄く合理的なんです。即興のときも楽ですね。この楽器に出会ったのが2007年の夏でしたから、1年ちょっとで人前で演奏できるくらいにはなれました(笑)。

鍵盤堂:
 流石です!クロマチック・アコーディオンへの転向を考えていらっしゃる方は当店のお客様にも多くいらっしゃいますが、やはり「全然違う」ことに二の足を踏まれている印象がありましたね。


神出さん:
 現在、日本でクロマチック・アコーディオン奏者として活躍されている方も、殆どがピアノ鍵盤からの転向組です。かとう(かなこ)さんも、檜山(学)さんもそうですね。かとうさんはフランスに留学してからボタンに転向し、1年足らずで全仏コンクールで優勝されています。どんな方でも1年練習すればちゃんと弾ける様になりますよ。

鍵盤堂:
 心強いお言葉ですね!では、具体的な練習法についてお伺いします。独学でアコーディオンを演奏されている神出さんですが、どういった方法で練習されましたか?

神出さん:
 まずはピアノの子供用教材を使って、童謡など簡単な曲を弾くことから始めました。いきなりジャズは弾けません(笑)。そしてアコーディオン用の輸入楽譜やホーナーの教則本を使って、スケール練習を含む練習を続けました。フリーベースも基本となるクラシック、バッハやバロック時代の音楽を練習しましたね。

鍵盤堂:
 やっぱり基礎から地道な練習をコツコツ積むことが大事ですね。


神出さん:
 ええ、基礎は大事です。教本からでも先生からでも、まずは運指の基礎を習得することは大事です。その上で、自分の弾き方にアレンジしていくことですね。こうして基本から練習していきある程度弾ける様になってくると、自分の弾きたい曲や頭の中で鳴っている音をアコーディオンのボタンや鍵盤に変換できる様になっていきます。これはどの楽器でも同じですよね。ギタリストが押さえるフレットと弾く弦を選ぶ様なものです。

鍵盤堂:
 そこまで来れば、アドリブを含むジャズの世界でも楽しめる様になる、と。


神出さん:
 その通りです!あと余談ですが、色々な教本や輸入楽譜を探していると、興味深い文献にも出会います。私が持っている1950年代のアレンジの書籍には、この当時からアンプ内蔵アコーディオンに関する記述があります。

鍵盤堂:
 何と!そんなに昔から考えられていたのですね。

神出さん:
 ええ。また、その書籍にはフリーベースの記述もあるんです。フリーベース/コンバーターシステムは比較的近年になって考案されたメカニズムだと思われていますが、この当時からあった様なんです。

鍵盤堂:
 なるほど。やはりアコーディオンの歴史は奥深いですね。
 では話題を変えて。当店でも先ほど申し上げた通り、クロマチック・アコーディオンへの転向を考えていらっしゃる方だけでなく、これからアコーディオンを始められる方にもクロマチック・アコーディオンを選ぶ方が少なくないのですが、クロマチック・アコーディオンのメリットを教えていただけますか?


神出さん:
 まず、ピアノ鍵盤と比べて音域が広いのが魅力ですね。同じ音域でも指の開き方や移動量が小さくなり、構造的にも小型軽量になるので女性にも楽に演奏できます。また、経験上の意見ですが、ピアノ鍵盤よりも手首に掛かる負担は小さくなると思います。

鍵盤堂:
 やはりその小ささ、弾きやすさが魅力ですね。では、フリーベースの魅力は如何でしょう?


音と音の「隙間」を活かした、繊細なボイシングを実演する神出さん。
神出さん:
 予めコードが決められているスタンダード(ストラデラ)・ベースに比べて、自分でボイシングが作れるのが最大の魅力でしょう。特にジャズの演奏などで、テンションが欲しいとき、スタンダード・ベースでは近い構成音を持つボタンを組み合わせて演奏しますが、余計なノートが演奏されて音が濁ってしまいます。必要な音だけを演奏する、きれいなボイシングはやはりフリーベースならではの魅力ですね。もちろん、ポリフォニー(多声音楽・コードの響きではなく、独立した複数の旋律が協和しあって進行する音楽)を演奏するのにも適していますね。

鍵盤堂:
 通常のスタンダード・ベースとは異なる表現のために使い分けるもの、という解釈で良いのでしょうか?


神出さん:
 その通りです。アコーディオンという単語も「Accord」、つまり「調和」「和音」が語源と言われています。指1本でコードが演奏できるスタンダード・ベースの良さはアコーディオンを演奏されている方ならもちろん理解されていることと思います。このアコーディオンもコンバーター・システムが搭載されていますから、曲によってはスタンダード・ベースに切り替えて演奏することもあります。それに、こんな感じの演奏(実演:和音を平行移動させて速いパッセージを演奏)はフリーベースはもちろん、他の楽器でも絶対に弾けない、アコーディオンならではの表現力ですよね。

鍵盤堂:
 確かに、生楽器でこうした演奏ができる楽器は他にありませんね。


神出さん:
 また、スタンダード・ベースで様々なボタンの組み合わせで実験的な響きを追及することもできますね。一方で、フリーベースで繊細な響きを追い求めていくことも。フリーベースは必要ない人には必要のないものかもしれませんが、選択肢の一つとして頭の片隅にあっても良いと思います。結局、アコーディオンを含む「楽器」とは、音楽という表現のためのツールなんです。自分の表現に必要な要素を見極め、必要なツールを使うことが大事なんだと思います。

鍵盤堂:
 楽器はツール。音楽という作品を作る道具・・・激しく納得です!
 貴重なお話、ありがとうございました!
如何でしたか?フリーベース・アコーディオンに興味が沸いてきましたか?
既にアコーディオンを演奏される方も、これからはじめてみたいという方にも、選択肢の一つとしてこの「フリーベース」というキーワードも気に留めてみて下さい。

やはり全ての楽器において大切なのは「基礎」の積み重ね。基礎を身に付けるからこそ、その後の応用、自分のスタイルの確立に繋がるという意見、全ての楽器を弾く方にとって大切なことですね。
それにしても、趣味で楽器を弾く方ならまだしも、プロフェッショナルな演奏家として活動されている神出さんが、それまでの経験や培ってきた技術を一旦リセットすると言う決断を下した勇気には頭が下がる思いです。そして、そんな決断を促した楽器との一期一会は楽器を弾く者として素直に羨ましいと思います。

これだけ楽器店の店頭には様々な楽器が並び、ネットでも大量の楽器が注文できる現代でも、「どうしてもこの楽器を弾きたい!」そんな楽器との出会いは貴重な経験です。このページをご覧頂いているお客様にとっても、当店にて販売中に楽器がそうした「出会い」となり、新しい一歩を踏み出すきっかけとなるのであれば、これ以上の幸せはございません。

引き続き、神出さんの愛器「HOHNER MORINO」の解説もご覧ください!

神出高志(かみでたかし)プロフィール
神出高志(かみでたかし) マサチューセッツ大学のジャズ・ワークショップにて奨学金を得てビリー・テイラー(ピアノ)、テッド・ダンバー(作曲、編曲)に学ぶ。
その後、ピアニストとして活動中、 気分転換で始めたアコーディオンだが、 この楽器の表現力の奥深さに、 独自の可能性をみいだし追求し始める。
以後、アコーディオンの魅力にとりつかれ、 アコーディオニストとして活動。 日本では数少ない自作曲を演奏する フリーベースアコーディオン奏者である。
2006年、NHK-BSサラウンド「響き」に出演。オリジナル楽曲2曲を演奏。2008年、iTunes Music世界22カ国にてオリジナル作品集「人魚と暮らした日々」を発表。

神出高志さん参加のユニットによるJAZZアルバムも販売中!

Liquid Cube / innocent heart

■ショッピングページ■
「神出高志さんオフィシャルサイト」  http://www.kamide.net/



本格的なアコーディオンは、他の多くのアコースティック楽器と同じく適切なメンテナンスさえ怠らなければ、末永く使用できる「一生もの」の楽器です。今回は、50年以上も良好なコンディションを維持し、全盛期のホーナーの素晴らしい音色を今に伝える貴重なアコーディオンの細部をクローズアップします。

そしてこちらがベース部分。こちらも貝殻からの削りだしボタンです。
矢印部分のバーはフリーベースとストラデラ・ベースとの切替レバー。1段高い2列は常時ストラデラ・ベース(ルート音と長3度)、下5列はフリーベース時には単音、5列の単音なのでトレブル側のボタンと同じ配列になります。ストラデラ時には順にメジャー、マイナー、7th、ディミニッシュに加え、オーギュメント(+5)の和音が割り当てられます。通常より1列コードボタンが多いのです!
ご覧の通り、僅か10秒程度でトレブル部分がベース部分から切り離されます!
ケースに入れたアコーディオンは航空機の手荷物としては大きすぎるため、こうして簡単に2分割できる機構が当時はポピュラーだった様です。
しかし、重量は約15kg。アコーディオンとしてはかなり重い部類に入ります。
ずらりと並んだボタンは全て貝殻からの削りだしによって作られています。レジスタースイッチを含め、プラスチック部品は(外装のセルロイドを除き)一切使われておりません。
一般的なボタン式アコーディオンとは異なり、全ての列のボタンに段差が無く、平面上に配置されているため非常に弾きづらいそうです。
このアコーディオンにはベルト式の蛇腹留めはありません。その代わりに、中央部には蛇腹をロックするためのレバー(青)が設けられています。
また、左右のボタンを押すことで簡単にグリルが外れ(黄色部分)、中に見える2本のレバー(赤)を動かすと・・・
そして内部には、何と当時モノ(?)の古いマイクがビルトインされています。しかし、その音はシャリシャリでちょっと実用上は厳しいとの事。
やはり多少周囲の音がカブっても、外に出ている音をマイクで拾う方が良い音が拾える様ですね。
残念ながら、こうしたアコーディオンは現存数が非常に少なく、また仕様も現行のホーナーMorinoとは全く異なるため、現在入手できる可能性は限りなく低いのが実情です。

とはいえ、コンバーター・システム(フリーベース)を搭載したアコーディオンは当店でもお求め頂けます。
特に、イタリアの名門「ブガリ」社ならば、ご希望の仕様での受注生産も承っております。価格及び納期に関しましてはお気軽にご相談下さい。(担当:アベ/イナガキ)

フリーベースを始めるなら!オススメはやっぱり「Vアコーディオン」!
Roland V-Accordion FR-3シリーズ
ローランドが誇るデジタル・アコーディオン「V-Accordion」。中でもFR-3シリーズは多彩な音と120ベースのフルスペックサイズ、そしてスピーカー搭載(FR-3sシリーズ)とバランスに優れたベストセラーモデル。
そしてFR-3以上の機種(FR-3、FR-5、FR-7)は、左手ボタンを「フリーベース」配列にも切替可能!ヘッドフォンでの夜間練習もOKですから、フリーベースを始めたい方にも最適です!

Vアコーディオンの
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最も手軽なボタン式&フリーベース搭載アコーディオン! イタリアの名門「ブガリ」。コンバーター式含め、各種オーダーも承ります。 ドイツの老舗「ホーナー」は、お求め易いボタンアコーディオンもラインナップ。 コンパクトなサイズと幅広い音域。デザインの美しさも魅力のボタンアコーディオン総覧!




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