T's Guitarsとは!
皆さん、T's Guitarsをご存知でしょうか?もし、知っている!という方がいらっしゃったら、かなり「ツウ」な方ではないでしょうか。

近年ではBuzz Feitern Turning System (以下BFTS)のインストールでも有名になっておりますが、元々は色々なメーカーのOEM生産をメインで運営しているギター工場です。工場とは言えそれほど大規模ではなく、OEM生産のギター&ベースもハイエンドな物が多く、工場と言うよりも工房と言う感覚に近い感じのところです。

このようなT's Guitarsは、長野県は松本盆地と呼ばれる地域内のやや南側、塩尻市に有り、この松本盆地と呼ばれる地域は年間の降水量が少なく、日本国内でも特に日照時間の長い地域であり、カラッと乾燥した気候からギター製作の工場が多い地域でもあります。近くには代表的な所だけでもフジゲン楽器やモーリスギターなど老舗の工場も多く、ギター製作が盛んな地域と言えるでしょう。立地的にも東京や関西方面とも近く、新宿からならば特急あずさに乗り3時間弱で到着してしまいます。
今回見学した夏場でも、駅に降り立つと、気温は高いのですが日陰では爽やかな風が吹き、東京の暑さとは一味違う気持ちの良い気候の土地です。近年でもOEM生産が運営のメインでもありますが、BFTSのインストールはもちろん、オリジナルブランドのギター製作や、本場ハワイでも高い評価を受けるウクレレの製作でも名を馳せております。



工場内見学
T's Guitarsでの生産規模を聞いてみると、月産で70~100本製作するとの事で、大量生産する大規模な工場というよりも、一本一本を大切に製作する工房を一回り大きくした感じです。エレキギター&ベースを製作する1Fでは、だいたい7~8人のスタッフで工場を運営しており、比較的に小回りの効く機械を使いギターを仕上げております。
バンドソーでだいたいの形に削り出したり、ピンルーターを用いてネックグリップを削りだしやテンプレートを用いてのザグリ加工をしたり、ベルトサンダーで形状を成形したりと、細かな仕様の違いなどの少数でのオーダーにも対応できる、ハンドメイドに近い造り方をしております。

唯一NCルーターが近代的な感じのする機械でしたが、このNCルーターも一軸の一番簡単なタイプで、大きな工場で見る4軸や6軸などの物よりもシンプルな種類の物でした。このあたりのお話を伺ってみると、「T's Guitarsでは、大量生産をする為にNCルーターを導入したのではなく、工作精度を上げる為に使っています。多軸のNCルーターですと管理も難しくなりますので、この方がミドルクラスからハイエンドまでの色々な機種を作る現在の規模ですとベストなのです。」との事でした。

リペアー等も数多くこなしている高橋氏ですので、特にネック製作の精度を高めたいとの思いからNCルーターを使っているようで、トラスロッドの仕込みなどには特に威力を発揮するようです。

ネック周りの製作も細かな要望に応えられるように指板Rなどは一本一本そのネックにあわせて専用の機械で削り出し、フレットの溝も様々なスケールに対応できるようにフレット溝一つ一つを専用の機械で切っていくそうです。また、ネックエンド部からトラスロッドを通す穴を開けておりましたが、このあたりもハンドメイドっぽい作業風景ですね。

見学時には作業をしておりませんでしたが、自動カンナがありました。昔は手作業で木材の平面出しや厚みの調整を行っていたそうですが、やはりこのような機械を導入すると早く正確に仕上がるようになったとの事でした。

また、ボディーのトップ材を張り合わせる時などに使う機械もありましたが、これを使う時には、センター合わせに狂いが出ないようにと接着強度を均一にする為に一枚ずつ張り合わせているそうです。何枚も一気にやると、やはりそのあたりの正確さが落ちるとの考えからだそうです。

工場の奥には塗装ブースがありました。

あいにく工場を見学させて頂いた時には塗装工程を行っておりませんでしたが、ベテランのスタッフが塗装を行っております。

T's Guitarsでは塗装を外注に出して行うものと、このブースで行うものがあるそうです。基本的にはラッカー塗装やこだわった物などはこのブースでおこない、別の場所にあるバフで仕上げるそうです。

工場の奥には広いリペアーブースが有り、ここでは製品の配線や最終組上げなどをおこなっています。さらに高橋氏のBFTSのインストール作業などもここでおこなっております。

エレキギター&ベースを製作する1Fをあとにし、2Fに向かってみました。2Fではウクレレを中心にアコースティック物の製作をおこなっております。

1Fに比べるとゆったりした感じの空間で黙々とウクレレを仕上げておりました。高橋氏曰く「ウクレレの本場ハワイのコンテストで優勝して以来、オーダー数が伸びてきましたので、2Fを増築しウクレレを中心にアコースティック系の製作をおこなっております。」とのことで、数多くある製作途中のウクレレや専用の木材ストックルーム、作業台などがありました。

作業風景はサイド板を曲げるヒーターが一台、昔ながらの枠板にはめ込んでボディーを製作する手法などなど、本当にハンドメイドという感じの造り方でした。

大まかではありますが、工場内を見学していきましたが、製作手順は工場と言うよりも工房といえるほどの規模で、大量生産というよりも1つずつの作業をシッカリと行い、良いギターを製作しようと言う意志を感じさせる工場との印象を受けました。

「T's Guitarsでは基本的にネックとボディーを別々に大量に製作するのではなく、初めからこのボディーにはこのネックをセットすると想定して製作しています。」とのお話を伺いましたが、工場の規模を考えると、手間を惜しまず真面目に製作しているのだなと思いました。高橋氏の「今後は製作本数を増やすのではなく、一本一本のクウォリティーを上げていくことを目指しています。」との言葉もT's Guitarsの方向性を現しているのではないかと思います。



木材のストックルーム
T's Guitarsでは、月産の製作本数を考えると当然の事ですが、結構多くの木材をストックしております。

アルダーやアッシュ、メイプルやマホガニー、ローズやエボニーなどの材が所狭しと有りました。

お話を伺ってみるとネック材は仕入れてからも一年ぐらいはここで寝かし、角材の段階から大まかに外周を削った後も寝かし、さらにある程度完成してからも寝かしと、木材の狂いを製品になる前にできるだけ出しきってから製作しているそうです。

そのような工程ですので、この木材ストック場所も角材や板材などは半分ぐらいで、残りの半分ぐらいは作業途中のネック材やボディー材がストックされておりました。

このストックルーム内は空調で温度や湿度を管理されております。ストックしてある木材には、仕入日や重さを記載して管理してある物も有りました。また、使う機種やメーカーによってもマーキングしてあったりもしていました。

T's Guitarsの特長としてはOEM生産でそれなりの本数を生産している為、木材の仕入も多くなってきます。その中から良い材を選別し少しずつ貯めているそうです。キルトやフレイムのメイプルやスポルテッドなどの美しい木材、ウォールナットやカリンなどのレア材も有ったりしました。また、ネックにこだわる高橋さんらしく、柾目のネック用メイプル材のストックが結構有りました。

高橋氏は木材への造詣も深く、板材をコンコンと叩いて、「こうやって木材をタップすると音が違うでしょ。やはり木材がそれぞれに持っている音色が有って、綺麗にスコーンと抜ける音がする物は良い材ですよ。」と言っておりました。

実際に音を聞いてみると、やはり違う感じがあり、これは良いですよと言う材は、良い響きを持っておりました。



BFTSインストール
工場内の奥に有る高橋氏のリペアーブースでBFTSのインストール作業を見学させて頂きました。

作業台はやはりリペアーマンらしく、数多くの工具が扱い易い位置に整然と並んでおりましたが、一番目に付いたのが見易い位置に有るチューナーです。チューナーはBossのTU-12、KORGのDT-7、そしてPetersonのストロボチューナーと3台を使い分けておりました。

お話を伺うと、まずは大まかにBossのTU-12でチューニングし、BFTSの時はKORGのDT-7を使い、そして細かく正確さを要求される時にはPetersonのストロボチューナーを使うそうです。やはりこのあたりにはこだわりが感じられます。

今回はストラトスタイルのギターに、シェルフナットと呼ばれるせり出しの有る特殊なナットを取り付けてBFTSをインストールする作業を見学しました。

一般的にはBFTSをインストールする際に、ナット位置(0フレット位置)をブリッジ側に多少移動しますので、通常ですと指板材を削ってナット位置を移動するのですが、ギター自体に手を加えたくない方用に、このようなせり出しの有るシェルフナットを使って、木部を加工する事無くインストールできるようになっております。

ただこのような形のナットを取付け、しかもBFTSの決められた数値に合うように加工する為には、コンマ1mm単位での精密な加工が必要となります。

まず、ナットを取り外し、元々のナット溝に残った接着剤等を取り除き綺麗にします。

全体のスケールと元々のナット位置が正確かをチェックします。フレットの幅なども計り、細かい数値まで計測します。

高橋氏いわく、市販されているギターは、殆どのギターが多少のズレがあるそうで、多い場合には1mm前後の狂いはあるそうです。近年の制作方法では、フレット位置は機械化されて製作される事が殆どですので、フレット位置がおかしい事はまず無いそうですが、ナット位置は加工精度の関係で多少ずれてしまう事が多いらしく、エレキギターの構造上、それほどは問題にならないようですが、チューニングにシビアな方ですと多少は気になるのではないかとの事です。

もちろんBFTSをインストールする際はシビアなナット位置が要求されますので、この誤差もシッカリとふまえてBFTSのナット位置を割り出し、シェルフナットを加工します。

シェルフナットの形状は指板Rに合わせて加工が必要となりますので、専用の冶具で指板Rを計測します。通常のナットよりも倍以上の加工箇所と加工精度を求められ、思っていた以上に大変そうです。

スケールと元々のナット位置を計測したデータをコンピューターに入力し、専用のプログラムを使い、そこで計算された数値を確認します。

その数値に従い、シェルフナットをドレぐらい削るか計測します。

始めは専用の冶具を使いピンルーターでナット底面の加工、シェルフ部分の指板に乗る場所とせり出す長さの加工、ナット上面の加工など、全体の成形をおこないます。

その後にベルとサンダーで、少し削ってはノギスでシェルフナットの形を計測し、また削っては計測しての繰り返しで仕上げていきます。

はい、キッチリと合いました!

・・・ といきたい所ですが、ギターに合わせた後にも微妙なズレをヤスリや小刀を使ってナット溝にシェルフナットがピッタリと合うように修正していきます。

だいたい形が整ってきた所で、さらにノギスでナット位置がBFTSに忠実な位置に来ているかをシビアにチェックします。

ここまできたらフレットの高さや弦高などを考慮してナットの上面を整えて、ナットの成形は完了です。

シェルフナットの成形が終わったら、弦溝を切っていきます。弦間のピッチや深さ角度などをチェックしながら溝を造り、完了したら弦を張ります。

ナットの加工が終わりましたらギターに弦を張り、ブリッジ位置を決めていきます。まず全体的にチューニングしてBFTSで決められたピッチでオクターブチューニングを合わせていきます。

このあたりになるとPetersonのストロボチューナーを駆使しており、慣れないと扱い辛いこのチューナーをテキパキと使いこなしてチューニングしていきます。このあたりはチューニングの正確さはもちろん重要ですが、やはりインストールする本人の耳で感じて違和感の無いポイントを探る事も重要だそうです。

BFTSを考案したバジー・フェイトン氏も数値をつめるよりも本人の感覚が大切だ!とミュージシャンらしい意見を言っていたそうです。

さらにこの後には、ロックナットでBFTSをインストールする作業を拝見しましたが、ロックナットの場合には、指板を削ってナット位置をずらす必要が有ります。

作業の最初には、やはりスケールやナット位置、フレットの幅などを計測し、BFTSに最適な位置を割り出します。

計測して割り出した数値を元に指板を削りますが、この際は特別な冶具にネックを固定してピンルーターで削ります。細かな単位までの加工ですので、削る前にも刃物の当たり方などを確認しノギス等で再チェックしながら慎重に進めます。

削り終わった後にもロックナットを合わせて再度確認します。
この時にナットの高さも再調整していますので、ナット位置と共にここもチェックします。問題無ければ指板部の加工は完了です。

ロックナットでのBFTSインストール時の注意点として、ロックナット自体のメッキの乗り具合やロックナット自体の加工精度によっては、指板に当たる面の平面がキッチリと出ていない時も有るようで、そのような時にはその面も正確な平面が出るように加工する事も有るそうです。

ロックナットの底面と指板が当たる面が垂直になっていて、しかも指板が当たる面が綺麗な平面が出ていないと微妙な狂いが出るようで、そのような細かな所もシッカリとチェックしています。

高橋氏がお持ちのロックナットのサンプルを何種類か比べてみましたが、同じような物でも様々なメーカーが有り、それぞれに微妙な差が有るようです。奥が深いですね。

さっそくロックナットの平面出しを行う為にベルトサンダーへ向かいます。
微妙な凹凸を修正するだけですので、ほんの少しずつ慎重に確認しながら削っていきます。

削り終わったら、その加工した面をバフで磨き綺麗に整えます。

微妙な削りの為にメッキ層だけの削りで終わる場合にはこのまま磨き上げればよいのですが、削りが大きく、下地の金属まで達する時には再メッキする事もあるそうです。

このように高橋氏は細かな所まで気を使い、BFTSのインストールをおこなっております。

現在では日本でもBFTSをインストールできるリペアーマンは多くなっておりますが、日本で認定を受けたのは高橋氏が最初だそうです。また、現在多くいるBFTSインストールの認可を受けているリペアーマンは、米国のBFTS社から資料をもらい、それを元にしてインストールするそうですが、高橋氏は米国の現地で実地のレクチャーを受け、実際に作業しアドバイスを受けてマスターする、もう一段高いレベルの認定を受けているそうです。

今までも様々なギターにBFTSのインストールを数多くこなしておりますので、お話を聞いているだけでもインストールに関するノウハウを多く持っているとの印象を受けました。



イケベオリジナルオーダー
T's Guitarsでは、エレキギター&ベースのOEM製品を主に生産しておりますが、生産数は少ないながらもT's Guitarsブランドでのオリジナルギターも製作しております。広告展開等はおこなっておらず、T's GuitarsのWebでの紹介と、今までにリペアーをおこなったお客様のリピーターが殆どだそうですが、それでも20年近く作り続けて現在までも200本近くは製作したそうです。

ただそのような関係で、現在でも市場に出回る事は殆ど無かったのですが、BFTSインストールの受付を池部楽器店で開始した時から数本店頭で販売をおこなってきましたが、国産品の中ではかなりクウォリティーが高く、手にした感触が海外の高級コンポーネントなどにも通ずる質感を感じるギターでした。

これは謙次氏の音楽的趣向がジャズ&フュージョン系で、その影響からサドウスキーやトム・アンダーソンなどのコンポーネント系のギターが好みな事もあり、スペックはオーソドックスなスタイルのギターではありますが、そのような傾向を持っておりながらも造りがシッカリとして尚且つ手頃な価格のギターという印象を受けました。
今回の工場見学で木材のストックを拝見させて頂きましたが、良質な木材が多く有りましたので、その中から特に厳選させて頂きオリジナルスペックのギターをオーダーしました。
まずは定番ですが杢目物のメイプル材です。ディンキーシェイプのトップ材に用いる材で、陰影の深い杢目がほのかに揺れる上質なフレイムメイプルのブックマッチです。もう一枚は、ストックルーム内に眠っていたカリン材をセレクトしました。この材は硬質なのですが、板を手でタッピングすると「カンカン!」とベルのような綺麗な響きを持っておりましたので使う事にしました。
さらに高橋氏こだわりの、ネック材用の柾目のメイプル材を厳選してセレクトしました。ネック自体の強度はもちろんですが、導管の綺麗な流れを持った材ですとトラスロッドも素直に効き、ネックのトラブルも最小限に抑えられるようです。

今回の厳選木材によるオリジナルオーダーギターは、完成次第ご紹介させて頂きます。
こうご期待!

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