現在、数え切れない程のメーカー、ブランドが存在するコンパクトエフェクター市場の中でも、特に幅広い層から大きな注目を集めているエフェクターブランド"Leqtique"。2010年より活動を開始し、ブティックブランドとしては異例のセールス、4000台を記録したオーバードライブ"Maestro Antique Revised"を皮切りに、ある専門誌では10年に1度の傑作と賞されたTS発展系オーバードライブ"Maestoso"、エフェクターにはかつて使われる事の無かった素子"D-Mosfet"を初めて採用したオリジナルハイゲインディストーション"9/9"等、独創的な製品を次々と輩出。
本年、4月にはバーサタイル的性能に特化したドライブペダル"Redemptionist"を発売。クリーンブースターからディストーションまで、異様なまでに幅の広いゲインコントロールと合理的なトーンコントロールを備え、あらゆるジャンルのギタリストから支持を得た他、同年8月には使用パーツの希少性から生産完了となっていた"Maestro Antique Revised"の最大ゲインを4倍に引き上げた"Quad Limited"仕様を限定で発売し、大きな話題を呼んだ。
そして11月。東京ビッグサイトにて行われた日本最大の楽器見本市"楽器フェア"にて新作、"Caeruleum Lightdrive High Definition"を発表。
活動開始から常に独自性を貫いた製品を発表し続け、現在では文句無しに日本屈指のエフェクターブランドとなったLeqtiqueであるが、この度、そのLeqtiqueを牽引するエフェクタービルダー、Shun Nokina氏に今年の4月以来、2度目の超ロングインタビューを決行。Shun Nokina氏のアトリエ、そしてオンライン上で延べ10時間程をインタビューに費やし、その中から約12,000文字を抜粋。
楽器フェアにて発表された新作について、そしてハンドメイドエフェクターブランドが乱立する現在、その中でも選ばれるべきエフェクターを作る上での深い見解を伺った。

Shun Nokina プロフィール

北海道出身
エフェクターブランド"Leqtique"代表。同ブランド製品の設計、製作を手がける現代の日本を代表するエフェクタービルダーの一人。
エフェクターブランド"Shun Nokina Design"として自らのキャリアをスタートし、それまで誰もエフェクター業界に持ち込まなかったハイレゾリューションパーツを多く使い、非常に個性的な設計、形式のエフェクターを多く輩出。流通量は僅かだったものの同ブランドの製品は瞬く間に人気となり、コアなエフェクターファンを中心に知名度を高めた。
その後、Shun Nokina Designを休止し、新たなエフェクターブランド"Leqtique"を設立。Shun Nokina Designと同等の高いクオリティを持ちながら一般流通を目的としたLeqtiqueの製品は既に多くの支持を集めており、その総出荷台数は既に7,000台を超えている。
また、近年世界的な注目を集めているモダンスペックギターブランド、Strandberg Guitarsの日本総輸入代理も務める。

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イケベ楽器アンプステーション(以下AS):お疲れ様です。先日の楽器フェアのLeqtiqueブースは大盛況だったみたいですが、実際どうでしたか?
Shun Nokina(以下SN):Leqtiqueを目当てに来場された方もいらっしゃり、本当に嬉しかったです。
また、何より代理店であるキョーリツさんのブース全体が終日賑わっていて、本当に良かったです。
AS:実際には行けなかったのですが、Leqtiqueのイベント中は人が多過ぎて入場制限のような状態になってしまったと聞きましたよ。
SN:そうなんです。どうしてあんなに来てくれたのか理解出来ないぐらいで。凄く嬉しかったです。
色んなショウに出展してきましたが、今回の楽器フェアが一番楽しかったですよ。
AS:それは良かったですね。
では早速ですが、その楽器フェアで発表されたLeqtiqueの新作である「Caeruleum Lightdrive High Definition(以下CLHD)」。
今回はこのCLHDについて聞かせて頂きます。まずこのモデル名の意味と、それはどんな意図があって付けられた名前なのでしょうか?
SN:Caeruleumはラテン語で「青」という意味です。過去のLeqtiqueのモデル名に込めた意味って、実はどれも語源を辿るとラテン語なんですよ。
AS:この青い塗装が先にあってのCaeruleumなんですか?それともCaeruleumというモデル名があって青い塗装にされたんですか?
SN:塗装が先ですね。青と言っても色んな青があるじゃないですか。僕のエフェクターは青が多過ぎると、冗談交じりに批判される事もあるのですが(笑)。
AS:確かに(笑)。
SN:でも色々な青があっても、CLHDに使ったこの塗装の青は強い深みを持っています。僕がSND(※1)で一番使った青です。凄い好きな色です。
AS:ではまずこの色があって、そこからモデル名が決まった訳なんですね。ちなみに、エフェクターの音と塗装の色って関連付けられているのですか?
SN:はい。どのモデルもそうです。
CLHDの青は凄く深いだけでなく透明感があるように見えませんか?深いという部分で低音がしっかりとしているという事と、透明感と音の解像度をリンクさせているんです。
その他に混じっている金色の塗料もRedemptionistで使用している物とは異なり、透明感があるタイプの金で、しかも今回使ったObbligato(※2)のコンデンサー本体の色ともリンクさせているんです。Obbligatoのコンデンサーの恩恵に与っている、という主張です(笑)。
AS:素晴らしい(笑)。そもそも、CLHDにはいつから着手していたのですか?
SN:う~ん…広い意味で言えば、そうですね…これは2012年にNAMMショウで使ったフライヤーなんですけど、ここにCLHDが既に載っているんですね。つまり、3~4年前から本格的に着手していた事になります。
AS:そもそものコンセプトはこのフライヤーにもある通り、ローゲインのオーバードライブでしょうか?あまりにも簡素な言葉ですが…。
SN:そうですね。ただ、結果完成したCLHDはバッファーとしても、プリアンプとしても妥協無しに使える物です。
バッファーって、基本的には通すと倍音が乗る為、音の輪郭(Definition)がはっきりするじゃないですか。CLHDは元の音そのままという様な音も出せますし、輪郭を強調した音も出せる。今までのバッファーにはその類のコントロールが無かったんです。インプットのインピーダンスをコントロールして似たような効果を得られる物はあるのですが、それはちょっと違うかなと。何よりそのコントロールでは音量も下がってしまいますし。
AS:なるほど。では次にこの3つあるコントロール、それぞれについてお伺いしたいのですが、まず左上はVolume。これは音量ですね。
SN:そうですね。
AS:右上はGainですよね?
SN:そうです。歪みの量ですね。所謂ローゲインなエフェクターなので、狭いゲインレンジの中でいかに美味しいスポットを広く、探りやすくするかという事を意識して定数やポットのカーブを選びました。
AS:最後にこの真ん中のコントロール。前述のコントロールがこれだと思うのですが、まずこれはなんという名前のコントロールなのですか?
SN:「Definition」ですね。大雑把に言うと、全体の輪郭を左右するような…解像度は落とさずに輪郭をボヤけさせるような…。
電子回路的に言うと、Overcompensation(※3)のテクニックを利用し、心臓部であるOPアンプ(※4)の応答速度と上の帯域のレンジをコントロールしています。また、同時に負帰還(※5)部のクリッピング由来の歪みとクリーンミックスのレート、スレッショルド等の多岐にわたるファクターをコントロールしています。
実際には、時計回りに回していくことでコンプレッション感が強まり、ヴィンテージ1N270ゲルマニウムダイオードの生み出すスムースさが帯域の制限と共に生み出されます。逆方向ではLT1028(※6)の純粋な超Hifiサウンドを堪能することが可能です。
こうした、ヴィンテージな暖かさと、近未来的なHifiさをスムースに移行できるコントロール、というのがもっとも正しく実用的な説明かと思います。
実際に楽器フェアで初めて試してもらった仲の良い友人達にも、"極めて音楽的なコントロール"と評価してもらい非常に嬉しかったです。
AS:とにかく四次元的なコントロールだという事は良く解りました(笑)。そもそも何故こういったエフェクターを作ろうと思ったのですか?
SN:実は、昔からブースターだったりバッファーだったりはHiFi好きな僕がやらなくて誰がやるって、ずっと思っていたんですよ(笑)。
AS:(笑)。いや、でもそれは確かに解ります。Shun Nokinaさんを知っている人からすればおっしゃりたい事はよく解りますよ。
SN:そのブースター、バッファーから考えを発展させて、それを生かしたローゲインドライブサウンドも同時に作れるようにしたのがこのCLHDですよ。
AS:なるほど。
SN:このエフェクターの音色で最大のキーポイントは低域です。低域には回路が全くと言って良いほど関与していないので、コントロールをどういじっても音が太いです。例えばTS系は良くも悪くも低域が無くなる物が多いですが、それに対してこのCLHDはギターのボリュームを絞っても低域が消えていないので、本当のクリーンサウンドが出るんですよ。
Definitionコントロールは実際にはカット方向のトレブルコントロールと似た感覚で使用可能ですが、それらパッシブのハイカットと決定的に異なるのがこのギターのボリュームを絞った状態の反応で、言葉で説明するのは難しいのですが、仮にDefinitionコントロールを時計回り方向いっぱいに回しきり、聴覚上では音が篭った様な状態にしても凛としたクリーンが出てます。また、ギターのボリュームを絞った際にエフェクター自体の歪みを薄めるというよりは、歪み成分だけを"抜く"という感覚に近く、音量自体がほとんど変化しません。この辺りは、是非実際に弾いて体感して頂きたいです。
AS:確かに一般的なドライブペダルではギターのボリュームを下げると本当のクリーンにはならないですもんね。何かしら音が変化したクリーンになってしまいます。
SN:そうなんですよ。
AS:ちなみに、このペダルでオススメのセッティング等はありますか?
SN:Gainを下げて必要に応じてVolumeを上げて、クリーンブースター、バッファーとして使うにはまず非常にオススメですよ。
AS:Definitionの値はどうですか?
SN:クリーンブースター、バッファーとしては半時計周りに目いっぱいを基調として、ノイズレベルと音の輪郭を意識しながらお気に入りのポジションまでDefinitionコントロールを時計回り方向へ回します。
ゲインブーストで使う際は時計回り方向へ上げ目、なぜならゲインブーストっていうとソロでの使用が多いのでスムースな音色が求められるからですね。
あと単体として、歪みエフェクターとして使うのも個人的には好きで。Gainを4時前後、Definitionを3時前後にすると、TSのようなスムースなサウンドを超解像度で近未来的に解釈したようなサウンドが出てきて面白いですよ。
AS:かつてこのCLHDに似たような物はあったと思いますか?
SN:うーん、自分が知る限りは無い様な気がします。何かと何かの長所それぞれを極限まで尖らせて組み合わせた、って言い方は出来るかもしれませんが…。
AS:ですよね。聞いておいて何ですが実は私もそう思っていますよ。

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AS:次に、今回はCLHDの造りについて全てをお聞きしたいと思っていまして。例えば、何故フットスイッチはコレで、ジャックはコレで、抵抗はコレで…。
SN:え!?そこまでですか?今何時ですか…??終わるのかな…。
AS:とりあえずやってみましょう(笑)。
解りやすく信号が通る順にお聞きするとして、まずインプットジャック。Shun Nokinaさんが作るエフェクターは以前から全てそうでしたが、何故このSwitchcraft(※7)製のボックス型ジャック(※8)を使用しているんですか?
SN:僕は元々SNDとして小型のエフェクターを作っていたのですが、そこで通常のオープンタイプ(※9)のジャックを使用すると端子と筐体やその他のパーツがショートする可能性があるんですね。それ以来ずっとボックス型を使用していました。
それに、僕のエフェクターの内部構造は「直線性」が大事なんですよ。ボックス型のジャックだと本体が平面ですので配線がジャックの上を通る時にたわまず真っ直ぐになりますし、それ自体も直線で出来ています。僕のエフェクターを構成するパーツは殆どが直線的なんですよ。その方が綺麗に見えるんです。
AS:一貫して内部パーツの外的印象が統一されているって事なんですね。
SN:そうなんです。あとハンダですね。 Switchcraftのボックス型ジャックの端子に成されている銀メッキが極めて優秀で。とにかくハンダの乗りが良いんです。作業速度も上がりますし、ハンダも外れない。
イメージと違って、価格で言ったらボックス型の方がオープンタイプよりもずっと高いのが玉に瑕なところですが…(笑)。
AS:アウトプットジャックにだけ絶縁タイプを使われている理由は?
SN:これは昔からの拘りで、一点アース(※10)の為ですね。
両側を同じジャックにした方が発注数を増やせるので単価も落とせますし、そもそもこの絶縁タイプのジャックは通常のボックス型と比べて更に1.5倍近い値段ですので価格面では大きなデメリットではあるのですが、やはりここは外せない拘りでずっと採用しています。
AS:では次にこのジャックから繋がる配線材、このクロスワイヤー(※11)についてですが…。
SN:これは僕が以前からずっと言っているのですが、この配線材のメーカーは家族経営で、まずその温かさに惹かれて使っています。
それと、現行品でありながら天然素材のみで作られているという点です。勿論、他にもそういった天然素材で作られた配線材はあるのですが、例えばJupiter(※12)とか。その中でも作業性が良く、仕上がりが綺麗なんです。
AS:Jupiterの線はコットンが緩いんですよね。直ぐに解けてしまう。
SN:まさにそうなんです。それに直ぐ燃えてしまいますし。
AS:では、次にフットスイッチ。これはどうしてこのスイッチを採用しているのでしょう?
SN:Alpha(※13)の3PDTスイッチ(※14)ですね。
これは複雑なのですが…まず、Leqtiqueを始めた頃はお店の在庫品を大量に買って使っていたんですね。Cliff(※15)のOEM品です。
ただ、ストック品は経年で端子の状態が悪くて、それから自分で中国の会社に特注品をオーダーして使い始めたんですね。
AS:特注!?1ロットにつき何個のオーダーだったのですか?現実的な数ではなさそうですが…。
SN:確か2,000個です。
AS:2,000個!?スイッチを2,000個もオーダーしたんですか…凄い数ですね…。
SN:ただ、そのスイッチの耐久性にバラつきがあって。それが解った時と同じくして、Alphaと連絡を取り合えるようになったんです。以前からAlphaとはずっと連絡を取れなかったのですが、ある日、初めて本社の電話に出てもらえる事があって。
AS:Alphaは台湾の会社ですよね?
SN:そうですね。で、その電話をしたタイミングっていうのがAlphaからも3PDTフットスイッチが発売されて数ヶ月ぐらいの事だったんです。
それでとりあえずサンプルを10個程度送ってもらって。届いた実物を見たら造りが非常にしっかりとしている印象だったんですね。そこから既に4,000個程、Alphaの3PDTスイッチを使っています。ただ、確かに非常に良いスイッチですが、問題もあります。
AS:問題と言いますと?
SN:例えば、100個中、2個前後は踏み込む途中に引っかかりがあって、今でも絶対に全数検品をする必要があるんです。
しかし、他の選択肢が無いんです。フットスイッチ事体の色を考慮して内部に統一性を持たせてありますし。もしApem(※16)から3PDTが出ればそっちに替えると思いますが、現状はAlphaが個人的にベストです。
AS:なるほど。では次に信号が繋がっているパーツっていうと抵抗ですか?
SN:2.2MΩの抵抗ですね。いつも通りなんですけど、ON/OFF時のポップノイズを防止する為の物です。メーカーはPRP(※17)ですね。
AS:使われる抵抗の種類はいつも通りですね。
SN:そうですね。PRPとAB(※18)。その理由も明確です。
SN:僕の場合、絶対的なのですが、サウンドに対して直列抵抗はAB、それ以外のバイアス抵抗等はPRPって決まってます。
AS:その他に珍しくジャンパー抵抗(※19)なんて物もありますが。
SN:特に理由は無く、そこはジャンパーしなければならなかったので使ったのですが、DALE(※20)が可愛い物を出してまして。
AS:え?コレってDALEの物なんですか?
SN:そうですよ。RN55(※21)です。
AS:めっちゃ可愛いじゃないですか!!
SN:そうなんですよ。それで使っているんです。そして、その次に繋がるのはCLHDで唯一のカップリンコンデンサー(※22)ですね。
AS:やはりコレは今回の目玉ですかね?
SN:目玉ですね。オーディオ界では非常に評価の高い、Obbligatoというメーカーのコンデンサーなんですけど、5年前に香港の代理店に行って直談判して引っ張ってきた物です。
AS:カップリングコンデンサーというと、音に直接的な影響を及ぼす部分じゃないですか。どのような狙いがあってこのコンデンサーを選んだのでしょうか?
SN:基本的にどんなパーツも音は加えない、あくまでも劣化を起こす物です。その劣化があって色んな音になる訳ですが、このObbligatoに関しては殆ど解像度を落とさない。強いてロスがあるとすれば、低域が微妙に軽くなるような…と言っても殆ど変わりませんが。
AS:では、このコンデンサーは完全にロスレスを目指した上で採用した、と。
SN:そうですね。この手の"引き算の回路"には全くカップリングコンデンサーを使用しない例も多く見られるのですが、実際の安定面などを考慮した上で、最小限の回路要素のみ残し、その中でも極めて解像度の高いこのコンデンサーを選びました。
AS:なるほど。
SN:次に、CLHDは両電源駆動(※23)の29~31Vで動いています。もっと正確に言うと上は+16V、下は-14Vぐらいですね。それを生み出しているのがこのLinear Technology(※24)のLT1026ですよ。
基本的には昇圧に使うICってMAX1044だったりICL7666だったりすると思うんですよ。そういったICを無理な方法で30V前後を作っているデザインもあるのですが、このLT1026は今の市場では非常に希少なクアッドで昇圧できるICなんです。
簡単に言うと例えば9Vから36Vを無理なく作る事が出来るんです。これはエフェクターには未だ誰も使ってないICだと思います。
AS:では、このLT1026が昇圧用のICで、もう一つ搭載されているICのLT1028が所謂OPアンプなのですね?
SN:そうです。このLT1028はオペアンプ界で最も解像度が高いと称されることも少なくないですね。
AS:オーディオ機器か何かに使われるんですか?
SN:メーカー品の中身で見かける事はほぼ皆無で、基本的にはハードコアな自作オーディオファンが自分の為に究極のサウンドを目指して使うようなOPアンプです。例えば近年の流れでいうと、エフェクターのデザインではBurr Brown(現TI)のOPA2134などが一般的に広く認知されている中で最もHiFiなOPアンプの一つですが、LT1028は価格面で最低でもその5倍以上します。音としては抜群ですが、やはり大量に生産すべき製品に簡単に使用できるようなものではないですね…(苦笑)。
AS:あ、少し戻りますが、一種類だけ多く使われているこのコンデンサーは…。
SN:アルミ高分子のOSコン(※25)ですね。昇圧する時って特性の良い大きめの容量を持ったコンデンサーが必要になるんですよ。
例えばCentaurって電解コンがかなり使われてますよね?
AS:そうですね。ありますね。
SN:あれは昇圧の為にだけでも多く使用されています。今回、そこを全部このOSコンでやって特性を良くしようと。その為、ノイズが多くなりがちな昇圧回路を使用しているのですが、ノイズは抑えてあります。
AS:なるほど。あとはダイオード。このブリッジダイオード(※26)とゲルマニウムダイオード共にクリッピングに使われているのですか?
SN:そうですね。
AS:まずブリッジダイオードの方にはどんな狙いが?
SN:ブリッジダイオードはスレッショルドレベルに"ゲタを履かせる"のと、自分のシグネイチャーアイデアにしたいので、前回のRedemptionistに続いて使いました。
AS:ではゲルマニウムダイオードの方は?他のパーツを考えるとゲルマニウムの選択はShun Nokinaさんらしくないようにも感じるのですが。
SN:そんな事はないですよ。この1N270は昔から僕が最も好きなダイオードの一つです。ゲルマニウムダイオードってスレッショルドが凄く低いじゃないですか?という事は最もコンプ感があってスムースなサウンドを作る訳です。
1N60や、1N34A(※27)等はそういったサウンドとはまた違いますが、1N270はきめ細かくスムースです。昔から使いたかったパーツだったのですが、なかなかチャンスが無くて。今回は特にスムースなトップエンドが必要だったので採用しました。
AS:なるほど。これで全部ですかね…あとはKeystoneの電池スナップぐらいでしょうか…。
SN:それはいつも通りですね。トラブルが限りなく少ない素晴らしい電池スナップです。あ、あと地味に拘ってるのはON/OFFのLEDですね。この薄い紫は特注なんですよ。
AS:これも特注なんですか!?
SN:そうなんですよ。この色がしっくりくるんです。
AS:それもまた凄いですね。

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AS:そもそもCLHDとは、回路的にはどんな構造になっているのでしょうか?
シグナルラインだけでもブロックダイアグラムで表してくれませんか?簡単で結構ですので。
SN:簡単じゃダメですよ。より詳しく書きますね…シグナルラインを全部書くと…こんな感じです(CLHDのブロックダイグラムを書いてみせる)。
AS:…めちゃくちゃシンプルですね。
SN:実用的な歪みエフェクターを作る上で、これより回路を簡単にする事は困難です。通常あるようなパッシブのトーン回路も無いし、音量を決めるアウトプットボリュームのコントロール方法も信号経路に邪魔をしていないし、その他はサージ電圧(※28)に対する最低限の保護回路ぐらいですよ。
AS:楽器の素の音に対して影響の少ない回路という事なんですね。
SN:その通りです。
AS:しかし、音に直接関係しているパーツ、例えばObbligatoのコンデンサーや、増幅部分のLT1028等、キーパーツにとんでもなく力を入れているという事なんですね。
SN:そうなんです。回路の内、信号経路にあるObbligatoのカップリングコンデンサー、増幅部分のLT1028はとんでもなく解像度が高い物なので、それを無視すると言うならばABの抵抗二つだけの音みたいなイメージになりますね(笑)。
AS:なるほど(笑)。
SN:それだけに今回はこのカップリングコンデンサーの部分には相当な物しか使えないんですよ。解像度を下げたら終わりなんで。
AS:確かにそうですね。
SN:あとは、この"Simplest"な構造に対して、これまたシンプルな機構によりどれだけ面白いコントロールを追加できるか…と逆説的な考えと何度も反復しながら思いついたのがLT1028のOvercompensation Pin(※29)の応用的な活用、という訳だったんです。
実験を繰り返して、この選択性の機能をポットで連続可変出来るようにしたんです。それがDefinitionコントロールですよ。
AS:ここまで色々と聞かせてもらって気になったのですが、ずばりおいくらなんですか?
SN:まだ最終確定はしていませんが、Leqtiqueのエフェクターはそれぞれのコンセプトをどれだけ拘り抜いても2万円以下というのが売りの一つなので…(笑)。ただ、今回は材料費が抜群に高い上、USドルも高くなってしまって、低価格の実現はかなり難しいというのも実際のところですね。
AS:そうですよね…ハイファイオーディオ用のOPアンプにコンデンサー、アルミ削りだし筐体を使っていては…。
SN:でも、価格が上がってしまった事だけを理由にして、仮に完成した素晴らしいものを手に取って頂けなくなって、評価される土俵にすら上がれないのでは意味が無いので。

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AS:まず近々で決まっている予定は今の所無いとお伺いしましたが、来年はどのような活動をされるのでしょうか?既に決まっている事はありますか?
SN:そうですね…来年はいつも参加する海外の展示会等への出展は控えて、日本で新しい機種の制作に集中したいと思っています。今回のCLHDのリリースでひとまずローゲイン~ハイゲインまでLeqtiqueのペダルのみでもバリエーションをもたらす事が出来るようになりましたが、最終的にはこのブランドからどれも唯一無二と思えるような歪みエフェクターを100機種リリースする事が目標なので(笑)。
AS:世界的最大手メーカー以上のラインナップ(笑)。
その新しい機種の構想は既にあるのでしょうか?ボンヤリとでも次に出したいと思っている音色等、可能であれば教えて下さい。
SN:パっと思いつくのはやはりシリーズ物である9/9の系譜のハイゲイン仕様ですね。次は10/10という、更にドンシャリ系のサウンドを自在に生み出せるような、それでいて更にハイゲインなものを考えています。その他にもいろいろなアイデアを考えていますが、どれも今は何か表明できるようなレベルには来ていませんね。
AS:それは楽しみですね。では次に、10年後は何をしていると思いますか?
現在ではコンパクトエフェクターブランドが乱立し、流行り廃りのような一過性のサイクルがとても短いように思います。10年後もどんな形であれ、エフェクターを作っていると思いますか?もしくは何か違う事業を始めていると思いますか?
SN:うーんと、Leqtiqueの30機種目くらいが作れていると幸せですね…(笑)。
その他、全く違うアイデアのエフェクターブランドである"L'abstract"や、今既に行っているスウェーデンのStrandberg(※30)のギターの日本での展開にも力を入れていきたいですね。
あとは欲張りですが、他にも何かチャンスがあれば広義的な意味での"製品"をデザインできたらなぁなどと思っています。確かに、流行り廃りはあると思いますが、自分の経験では強いポリシーを貫き続けているエフェクターブランドはどんな規模感であれ存在し続けているように思うので、例えばLeqtiqueでいうとなるべく低価格であることや、半永久的な無償保証等を貫き通したいですね。
ということで自分の意思としては10年後も今と変わらずエフェクター作りを続けていたいなと思っています。
AS:今話に出たそのL'abstractとは、具体的にどのような狙いを持ったブランドなのでしょうか?
SN:L'abstractというブランドについては、自分のTwitter(https://twitter.com/leqtique)でも数年前より少しづつ情報を公開しているように、Leqtiqueを始めた2年後くらいから少しづつ構想を練っている全く別枠のブランドです。
内容としては、始点の一つとして"ハンドメイドとは何か?その逆に大量生産とは何か?"というイマジネーションの世界を現実的な観点で切り崩すことでした。
例えば超高級な車を例にとると、高度にオートメーション化された内容に最小限必要な人間の手が入ることで完成していると思いますが、そんな内容に近いものになると思います。所謂"ハンドメイド"というイメージと、実質的にもそうであるLeqtiqueブランドのエフェクターの全機種をL'abstractからそういった違う枠組みで、全く別の高級感を醸し出しつつ、さらに低価格etc...これ以上は後のお楽しみとしましょう(笑)。
とにかく、曖昧にされがちな種々のテーマについての自分の思う決定的な回答。と、結局Abstract(抽象的)な回答になってしまいましたが、お許しを(笑)。
AS:なるほど。ではそもそもハンドメイドとはどのような事であるとお考えなのでしょうか?一般的な考えで言えばハンドメイドだからこそ出せる音のようなイメージが存在すると思うのですが、その逆にある方法論ではどのような音が出せるのでしょうか?
SN:"ハンドメイド"という言葉があまりにも多義になっている例だと感じます。
"ハンドメイド"が"手工品"という意味を超越して、ハイエンドコンポーネンツの使用や、PTP(※31)による配線方法等が前提といった風に捉えられがちだと思います。しかし、例えば電気的ロスが少ない等と語られる事が多いPTPに対して、特殊な基盤を使用する事で電気的にロスレスという、ここで問われるべき"良質さ"をクリアしつつも生産効率を上げる事が可能です。
そうでありながらも、"ハンドメイド"の制作過程に含まれる重要な人間の手の温かみの残った製品、というより"作品"には、人の心に訴えかけるプラシーボがあるのもまた事実だと思います。そういった事は、精神論になりがちですが、純粋に"音"について言えば、僕の答えとしては"ハンドメイド"だから、"大量生産"だから、出せる音、出せない音の差は無い。もしあるようであればそのどちらかないしは双方の生産過程ないしはそれより前のデザインがより高度であるべき。とだけ結論付けています。
AS:ハンドメイドか否か、そこでの価値観に差を付ける必要が無いという事はよく解りました。
では、Shun Nokinaさんにとって良いエフェクター、そして目指すエフェクターとはどのような物なのでしょうか?
SN:究極的に難しい質問ですね…理想論かもしれませんが、まずは手に取って頂いたユーザーさんに恒久的な所有する歓びを覚えていただけるような物、つまりは音もそうですし、レイアウトや、カラー等のデザイン、その他購入時の思い出等々です。
と同時に、その販売に司る、流通業者さんや販売店の方々が販売していきたいと思えるようなエフェクターである事、つまりはしっかりとしたビジネス的な枠組みも備えていることが必要不可欠と考えます。
なぜなら、そういった事は例えば一過性の無理なプロモーション等よりも、真実に市場に浸透させる事が出来ると考えているからです。
そして、作り手の利益やエゴイズムの昇華は一番最後に還ってくるような。そんな全てを実現してい物が、自分にとって良いエフェクターであり、目指すエフェクターです。いつまでも弾いていたくなるようなスムースなハイミッドを備えた官能的な音のするミドルゲインオーバードライブ…等という答え方も勿論可能ですが、それよりももっともっとトータルで考え、その再現はあくまでも歓びの中の一つ、という形にしていたいですね。
AS:この話を聞いて、BOSSは「もの作り」と「こと作り」を大事にしていると、浜松のRoland研究所で聞いた事を思い出しましたよ。
SN:素晴らしいですね。この上無く偉大な先駆者です。
AS:ではこれが最後の質問です。今後のエフェクター市場はどうなると予想していますか?
勿論、遠い昔から今までと同様に一定の波があるとは思いますが、近く大きな時代の変流等が起こると思いますか?
SN:うーん、そうですねぇ…テクノロジーの進化は甚だしいので、デジタル領域の製品レベルとしての進化は無論留まる事を知らないでしょうね。
こと、自分の属すようなアナログエフェクターの世界に絞ってみれば、なんとなく、~1万円/1~2万円/2~3万円/3万円~というように価格別で見られることも少なくないと思いますが、あらゆる理由により、例えば価格にして10倍の差があったとしても同じような音の出るエフェクターというのが増えてくると思います。
結果、音以外の付加価値か、それとも価格か、そういった非常にシビアな市場に進んでいき、我々の作るべき製品や、枠組みのデザインは限界まで洗練される方向に進んでいくのではないかと考えています。
自分も時代に取り残されないように、Leqtiqueをブラッシュアップしていく事と、L'abstractを意味のある最良の形で始めていきたいですね。
注釈
※1 Shun Nokina Designの略語。Shun Nokina氏がLeqtique設立以前に牽引していたブティックエフェクターブランド。活動中は数多く大きなムーブメントを作り出した。
※2 中国とロシアの国境付近に工場を構えるハイファイパーツメーカー。CLHDには同社の真鍮削り出し非磁性ケースを使った超良質コンデンサー、Gold Premium Film Capが採用されている。
※3 ICの安定性と動作能力の均衡を操作するような回路、機構。
※4 Operational amplifierの略語。トランジスタ等のように増幅動作を行うICの総称。一般的にオペアンプと呼ぶ。
※5 増幅回路の種類の一つである負帰還(ネガティブフィードバック)増幅の事を指す。CLHDにもこの増幅方法が採用されている。 ※6 CLHDに搭載されたLiner Technology社が作る超高精度、高性能、高速IC。
※7 アメリカの老舗コネクターメーカー。同社のジャック、プラグは電子楽器業界でスタンダードとも言える程の普及率を誇る。
※8 接続されたプラグを保護する形で端子がプラスチック等の絶縁体に覆われている形式のジャック。
※9 端子を覆う絶縁ケース等が無く、差し込んだプラグが剥き出しになる形式のジャック。Switchcraftのオープンタイプはハイエンドエフェクターメーカーや、Fender USAやGibsonを始めとする大手ギターメーカーの殆どが自社製品に採用している事で有名。
※10 オーディオ製品の間ではノイズ低減、音質向上に対して有力とされている電気的工夫。電気製品内のアースを複数点から取るのでは無く、グラウンドとすべき1点にのみ接続する製法。
※11 被服がクロス(布)で作られた配線材の総称。100年以上前から使われている非常に古い造りを持った配線材。
※12 Jupiter Condenserを指す。良質な素材、古き良き製法に拘って配線材、コンデンサー等を造るアメリカのパーツメーカー。
※13 台湾の大手電子パーツメーカー。同社のPOT、スイッチはエフェクター業界で古くから多く採用されている。
※14 3 Pole Double Throwの略語で、3つの回路を同時に切り替える事の出来る9個の端子を持ったスイッチの名称。コンパクトエフェクターのLED点灯とトゥルーバイパスを同時に実現させる為に有効な形式のスイッチ。
※15 主にコネクター、スイッチを扱う古くから存在するイギリスのパーツメーカー。60年代のイギリス製エフェクターの内部にも同社のジャック等が散見出来る。
※16 フランス、モンペザにて1952年より創業を続けるスイッチのメーカー。Shun Nokina氏は同社のスイッチが持つ質感をこよなく愛しているが、現在は未だ3PDTタイプのスイッチを製造していない。
※17 アメリカの良質な電子パーツメーカー。同社の鮮やかな赤いメタルフィルム抵抗はLeqtique製品のトレードマーク的存在。高価であるが澄んだ音色を持つ。
※18 Allen Bradleyの略語。良質な固定抵抗、可変抵抗を多く造っていたアメリカの部品メーカー。同社の抵抗は多くのヴィンテージギターアンプ、オーディオ機器に搭載されている。
※19 基盤内のある接点と接点を繋げる為に使われる抵抗値の無い抵抗。抵抗型のジャンパー線とも言える。
※20 現在では大手パーツメイカー/サプライアーの傘下ではあるが、1952年から存在するアメリカの老舗電子パーツメーカー。同社の抵抗は精度、特性に優れており、アメリカ軍需要に対しても製品を提供している事で有名。
※21 DALEの中でもポピュラーなメタルフィルム抵抗の製品ラインナップ。
※22 回路内のあるセクションとセクションを橋渡しするような形で信号経路に直接配置されるコンデンサー。エフェクターの場合、音声信号に対して非常に大きな影響を与えるコンデンサーとなる。
※23 通常のエフェクターに多く見られる正電源、不電源だけで無く、その両方を使って電位差を作り、より大きな電圧を取り出す方法。例:±9V=18V、+12 -9V=21V
※24 アメリカの半導体部品メーカーの一つ。多くの半導体メーカーの中でも特に秀でた演算能力、性能を持ったICを生産し、自作オーディオファンからは随一の支持を得ている。
※25 誘電体に導電性高分子を採用したコンデンサー。従来の電解コンデンサーと比べ、耐久性の向上、高周波に於けるインピーダンスの低下、本体の小型化等を可能にした。元々はSANYOが生産していた。
※26 Shun Nokina氏が前作のRedemptionistから採用している整流用ダイオードを組み合わせた様な構造を持つ種のダイオード。現状、他の歪みエフェクターのクリッピングには全く使われていない。
※27 1N34, 1N60A共に、現在でも非常に流通量の多いゲルマニウムダイオード。エフェクターに使われているゲルマニウムダイオードの中でも特に大きなシェアを持つ。
※28 何らかの要因による急激な電圧の上昇の事。発生に伴って非常に大きな電流が回路に流れ、内部ICの損傷等を招く。
※29 LT1028に装備されているOvercompensation回路を機能させる為の端子の事。この回路は通常はON/OFF等の2択として使われるが、Shun Nokina氏は独自にこの回路を連続可変にする仕組みを生み出し、採用している。
※30 Shun Nokina氏が輸入代理を務めるスウェーデンのハイエンドギターブランド。人間工学を基に計算された先進的な設計を持つギターをラインナップする。
※31 Point to pointの略語。パーツとパーツ自体を手作業で直接半田付けして回路を完成させる製法。大量生産には向かないが、専用の設備や大きな投資を必要としない為、自由な電気回路の製作を可能とする。
以上、Shun Nokina氏が作るエフェクターへの考えの深さ、拘りの強さが少しでも伝わりましたでしょうか?
エフェクターのスペックや写真等の情報をWEBページへ掲載したとしても、このインタビューで語られているような特別な青色の塗装の質感、素晴らしいコンポーネンツならではの瑞々しい音色、オリジナリティ溢れる回路から生み出されるそれならではの弾き心地、操作感等、真に感じるべき何かをインターネット上から伝える事はとても難しいのが現実です。
Shun Nokina氏の多大なるご協力があった為、非常に有意義な情報を伝える事が出来た今回のインタビューですが、是非情報だけでなく店頭にいらして頂き、直接製品を手に取り、そして実際に音を出して頂ければよりShun Nokina氏がエフェクターに込めた思いや考えが理解出来る事と思います。
Caeruleum Lightdrive High Definition