現在、日本のエフェクター市場でも一際異彩を放つハンドメイドブランド"Leqtique"。
2010年に突如としてこの市場に現れ、ただならぬ存在感とズバ抜けたサウンドクオリティを持った製品を発表し続ける現在の日本を代表するエフェクターブランドの1つである。
そのブランド設立者であり、製品のデザイン、ブランディング、マネージメントを行うのがエフェクタービルダーであるShun Nokina氏だ。
Shun Nokina氏は自身初のエフェクターブランド"Shun Nokina Design"を設立し、アンダーグラウンドシーンでカリスマ的人気を誇っていたが、同ブランドを休止し、新たに"Leqtique"を設立。
パーツ供給の問題から現在は生産完了となった同ブランドのデビュー作"Maestro Antique Revised"はハンドメイドエフェクターとしては異例である4000台のセールスを記録し、その後継機種"Maestoso"も発売から直ぐに高評価が広まり、某雑誌で10年に1台の傑作とまで賞賛されるに至った。
その後、かつてエフェクターには用いられる事の無かった素子"D-MOSFET"を使用したハイゲインディストーション"9/9"を発表。それまでのハイゲインサウンドとは一線を画す弛みの無い、そして速い反応性を持ったドライブサウンドは既に各所で絶賛の声が相次いでいる。
そして2014年4月に新作、"Redemptionist"を発売。
オーバードライブからディストーション、更にはクリーンブースターとしても使える程の異様なまでに幅広いゲインレンジ、そして合理的に考えられ、絶妙な音色変化をもたらす2つのトーンコントロール、Treble、Low cutを備え、かつてない汎用性を誇る超良質なペダルに仕上がっている。
これまで常に斬新な何かを提案し続け、ある種のカリスマ性すらも感じさせる奇才、Shun Nokina氏とは一体どのような人物なのか?
この度アンプステーションはShun Nokina氏に約10時間に及ぶロングインタビューを決行。
Leqtiqueで行う"もの"作り、新作Redemptionist、そして今後の展望について聞いた。

Shun Nokina プロフィール

北海道生まれ
ハンドメイドエフェクターブランド"Leqtique"代表。
同ブランド製品の設計、製作を手がける現代の日本を代表するエフェクタービルダーの一人。
ハンドメイドエフェクターブランド"Shun Nokina Design"として自らのキャリアをスタートし、それまで誰もエフェクター業界に持ち込まなかったハイレゾリューションパーツを多く使い、非常に個性的な設計、形式のエフェクターを多く輩出。
流通量は僅かだったものの同ブランドの製品は瞬く間に人気となり、コアなエフェクターファンを中心に知名度を高めた。
その後、Shun Nokina Designを休止し、新たなエフェクターブランド"Leqtique"を設立。
Shun Nokina Designと同等の高いクオリティを持ちながら一般流通を目的としたLeqtiqueの製品は既に多くの支持を集めており、ハンドメイドブランドでありながらその総出荷台数は5000台を超える。
また、近年世界的な注目を集めているモダンスペックギターブランド、Strandberg Guitarsの日本総輸入代理も務める。

Leqtiqueで作る"もの"とは

―簡単に自己紹介をお願いします。
Shun Nokina(以下、SN):Leqtiqueでリードビルダーを務めるShun Nokinaです。宜しくお願い致します。
―宜しくお願い致します。早速ですが、現在Leqtiqueではどのような形態で製作、生産を行っているのでしょうか?
SN:今は僕を中心として3人で全ての作業を行っています。
僕はブランディング、回路設計、基盤部のはんだ付けや、筐体上面の塗装等を。
Noelという自分のエフェクターブランドも持っているビルダーのイワタが基盤部へのパーツの組み込み、配線等を。
そして大畠が筐体側面の塗装、パーツや製品の輸送、管理等を担当しています。
―あれだけの流通量がありながらたった3人だけなんですね。
SN:過去にも才能豊かな様々なメンバーと製作する機会がありましたが、今のメンバーが一番バランスが良いと感じています。
―Shun NokinaさんがLeqtiqueで設計されたエフェクターはどれも非常に強いオリジナリティを感じます。
どこでどのようにしてエフェクターを作る技術を学んだのでしょうか?

Shun Nokina氏がエフェクター製作の参考にしているという電気工学の実用書。現在では手に入り難い物もコレクションされている。

SN:まず多くは海外のエフェクター個人製作家が集まるフォーラムですね。その時に人気のあったエフェクターの回路図やモディファイの実例等が多く出回っていた場所です。
あとは日本の古い電気工学の実用書からも多くの事を学んでいます。
そういった実用書の内、殆どがエフェクターの設計とは無縁の内容なのですが、それでも多くの本を集め、1冊につき数ページずつでも参考に出来る部分を掻い摘んで読んでいました。
あ、あと大塚明さんの「サウンド・クリエイターのための電気実用講座」は何周もしましたね。
エフェクターを作ってみようという方向に向かわせてくれる入門書として極めて良書でした。
―あの本は確かに解り易くて良い本ですよね。私も何度も読んでいます。
そんなShun Nokinaさんが初めて作ったエフェクターはどんな物でしたか?
SN:もう、殆ど覚えていないですね・・・
恐らくですが、MI AudioのCrunch Boxを改造したモデルや、LandgraffのDynamic Over Driveをコピーした物が最初の頃だったように思います。
―そのCrunch Boxを改造したモデルも気になりますね。どのような改造をした物だったのでしょうか?
SN:誰もが最初にやる事です。使うパーツを少し高級な物に替えたり、クリッピングダイオードを替えたり。
その後は少しコンデンサーの値を変えたり、といったところです。そういった実験や検証は2年程続いたと思います。
―なるほど。そんな最中、Shun Nokinaさんの最初のキャリアとなったエフェクターブランド、Shun Nokina Design(以下、SND)とはどのようなものだったのでしょうか?

前作"9/9"を設計していた際に使われていたノート。素子の特性等が計算式と共に事細かく書き込まれている。

SN:主に友人やSNSからの依頼でワンオフのエフェクターを作っていました。
自分勝手に追い込んだアスベクト比のサイズに回路を詰め込んだエフェクターです。
そのきっかけは友人のギタリストが面白半分に1590Aケース(※1)でエフェクターを作れないか?と聞いてきた事です。
現在ではミニサイズのエフェクターは珍しくありませんが、その当時にそういったサイズのエフェクターは殆ど無く、あってもcatalinbreadの2機種、Landgraffのファズぐらい。そのサイズで4ノブのエフェクターなんて皆無でした。あと、使うコンポーネンツは今よりもヴィンテージ志向が強かったですね。
―ヴィンテージ志向と言うと、具体的にはどんな物です?
SN:SNDではサイズの制限が多いので、まず小さくて良いパーツを探そうと。そうなると基本的に古い物、MKT1826(※2)等の出会いもそこでありました。
これは今でもLeqtiqueで継承されていますが、WE(※3)のワイヤーも好んで使用していましたね。
あと執拗なまでのカーボンコンポジション抵抗(※4)への執着。特にXICON(※5)。他にもAB(※6)とか。
とにかくハイファイということを念頭に置いて、という感じではなかったですね。
―それはイメージとは少し違いました。もっとハイエンドなオーディオ的観念が強いと想像していたのですが、そうだったんですね。
SN:ええ。例えば、一般的にEROのMKT1826とWimaのMKS2(※7)を比較したときのサウンドの差がSNDとLeqtiqueの差をうまく表現していますね。
前者は過去にSNDで、後者は現在Leqtiqueで多く使っています。
―他の部分で解像度の高いパーツを使ってバランスを取っていたような事は無く?
SN:少しづつそういった傾向は作品に現れてきていたように思えますが、今のように超ハイファイなLinear Technology(※8)のOPアンプ等を使うようなことはなかったですね。ハイファイを求められる製品がラインナップに無かったという事も大きかったのですが。
―そのSNDの人気は高まるばかりで、アンダーグラウンドの世界では伝説的なムーブメントを作っているように見えました。
なぜ同ブランドの活動を休止してしまったのでしょうか?
SN:言葉にするのは難しいのですが、やはり閉鎖的なアンダーグラウンドシーンをメインに活動していたという事で、もう少しオープンな場所で物作りをする事にチャレンジしてみたいという想いが強かったんだと思います。
それと同義かもしれませんが、一番の理由はLeqtiqueというブランドのイメージが湧いていて、そこでできる新しいアイデアがあったということですね。

Shun Nokina氏が愛用するPB社の精密マイナスドライバーと、Lindstrom社のニッパー、RX8148。どちらも氏と言えば、という程にお馴染みの工具だ。

―では、Leqtiqueを始めた理由とは?
SN:それは自分のエフェクターをもっと、例えば中高生の方々に手にとって欲しいという事ですね。
当時のエフェクター市場にあった所謂ブティックエフェクターは高価でしたし、前SNDの製品も値段的にも限られた人にしか買えない(¥35,000前後の製品が多かった)。予算的な縛りがある場合でも、なるべく自分の作っている作品やその音を知って欲しかったんです。
―そういった理由でLeqtiqueのエフェクターは¥15,000前後という価格設定なのですね。
そもそもそういったエフェクターを作る事を仕事にしたきっかけは何だったのでしょうか?多くの方が気になっている事だと思います。
SN:気付いたらそればかりの時間で、仕事としていたという感が強いですね。
それまで自分の思っている事をやっているブランドが他に無く、ポリシーを貫く為にはそうするしかありませんでした。
―では、仕事としてエフェクターを作る事と趣味としてエフェクターを作る事、両者の最も大きな違いは何とお考えですか?
SN:仕事にするっていう感覚が人それぞれだとは思うのですが、その違いは本当に多くあります。まず製造コストの規模が違いますね。
仕事として納品数が増えれば使うパーツの量も比例して増えますし。ビジネス感も製作スキルも個人で求められるレベルとは全然違う。
―それは間違い無くそうでしょうね。
SN:でも・・・それでも最も大きな違いと言えば、妥協出来ない、って事かもしれません。
趣味としてエフェクター作ってる分にはいくらでも妥協できるじゃないですか。
人と繋がらなくても良いし、好きな物だけ作っていられるし、パーツだってノリで選べるし、文句言われても無視出来るし。
無視って妥協なんですよ。他の可能性を見ないから。仕事で始めたら妥協出来ないですよ。何も。総合的に。
伝わり難いかもしれませんが、一言で表すとすればこれが一番しっくりくる表現ですね。
―その妥協出来るか出来ないか、妥協出来ない世界を選んだ事はLeqtiqueの製品のどこからか見て取れますか?
SN:まず製造コスト。コストは限りなく追い込んでいて、かと言って自分の使いたい物は完全に使っている。
各パーツは国内外のサプライヤーから基本的に千~万個という規模で仕入れる事で、やっと使いたいパーツを必要な期間、そして最終的に製品が低価格であるまま使う事を維持出来ています。
次に製品の永久保証。新品の製品には1年間の保証期限が書かれた保証書が付属しますが、その期間を超えていても僕に連絡頂ければ無償で修理しますよ。
作った作品が数台であればこういったことは基本的かと思いますが、Leqtiqueのように何千台という規模だとなかなか難しい。
しかし、これを最後までやり抜くという事は前述のポリシーを貫くという事にもなり、自分自身でも強いやりがいを感じますね。
また、こういった内容以外でもエフェクターとは別の他業界で当たり前のように行われているその基準ラインなどを客観的に見る事で、自分にとって非常に重要な刺激になっています。
―永久保証とは、凄いですね。保証書が同封されていたのでそうとは思いませんでした。
SN:実は小さくですが、保証書内にも記載がありますよ。
また、この事は今後Twitter(https://twitter.com/Leqtique)等のSNSでも定期的に発信するようにしていこうと思っています。
―それ以外に設計的な部分からもその仕事が見て取れるようなところはありますか?
SN:設計の事で言うと、まずはサウンドの要である回路。
回路の変更は前述のどんなパーツの変更よりも次数が違う程の最終的なサウンドの差異を生み出します。
新作を作る時、素子レベルから見直す事とあらゆる手法を試す事で、斬新、独創的な回路であり、且つ自分の狙ったサウンドを出せているという究極的なゴールをいつも意識します。
また、回路以外のワイヤリングなど包括的な意味でのコンストラクションの設計についてですが、一貫して、そこが複雑化すると音もそれに伴い劣化し、更には故障率も上がり、見栄えも良くない。ですので、可能な限り、無駄を省くことでクオリティを高いレベルで安定させるようにしています。
例えばインプット、アウトプットジャックのアースをどう繋ぐかという事ですが、敢えてケースを一般的な物より少し厚くする事でそれ自体がはんだで結合できるようにしてあります。一点アースを重要視している事と、削り出し筐体が持つ自由度の高いデザインとを合わせた造りです。
―あのインプット、アウトプットジャックのアース端子自体をハンダ付けして固定するアイデアは素晴らしいですよね。
ああなっていればどちらかのジャックのナットが緩んだとしても、もう片方のジャックが緩んでいなければジャックが外れる事は無いし、ジャックが回って配線を切る恐れも無い。更には配線材を使うよりも効率的で美しい。
SN:ありがとうございます。 あの造りは他にも筐体外に飛び出すジャックの長さを理想的な値に出来る、アルミブロックからの切削量を減らす事が出来る等、総合的にあらゆる点で有利です。
こういったように、パズルを組み合わせるのと同様で、なるべく良い形のピースを設計の要素レベルで考える事が非常に重要的な事と考えます。
―そういった考えの深さはLeqtiqueの製品自体からも汲み取れますよ。素晴らしい設計だと思います。
ところで、そんなShun Nokinaさんが好意をよせる現代のエフェクターブランド、製品はありますか?
SN:部品や総合的な設計に対して強い意識を持っている自分からすると当然なのですが、やはり大手ブランドの製品はどれも非常に強力で、とても勉強になりますね。
ブティックエフェクターだとやっぱりNature Soundさんのとりわけ基盤部の美しさは比較できるレベルではなく、勝手な推測ですが、家具製作で養われたバランス感と精密な仕事であり、惚れ惚れしてしまいます。海外ブランドだと、Toneczarあたりがブランディングも含めて、孤高で大好きですね。
基本的にエフェクターや音楽の世界だけでなく、他の要素や空気感も含んでいるようなブランドや作品が大好きです。

新作、Redemptionistの全貌

2014年4月に発売となったLeqtique版のRedemptionist。その隣に写っているのはShun Nokina氏が愛用を続ける良質なハンダ、TRT Wonder Solder Signatureだ。

―つい先月(2014年4月)に発売された新製品"Redemptionist"(以下、Red)ですが、前キャリアであるSNDにも同名のエフェクターが存在します。
LeqtiqueでもRedを発売しようと思ったのは何故ですか?
SN:未だにSNDの人とか、Redの人、とか言われる事が本当に多くて。
―未だにですか?意外ですね。SNDの時と今では流通量が全然違うのに。
SN:僕が一番意外ですよ。そんな事もありますし、Redの音を知らない方々、販売店様も多くいらっしゃるので、だったらやってみようかな、というのが一つ大きな理由ですね。
SNDのRedは高価でしたが、やはり中高生にも手にとってほしいですし。
―フォーマットも、音色も、SNDとLeqtique、両者のRedには大きな違いを感じます。実際、どのような違いを付けたのでしょうか?
SN:サウンド面で言うとコンプ感とTrebleコントロールですね。
まずコンプ感はSNDの時よりも薄い。SNDの時は2段目のFET入力部分でコンプレッションが掛かかっていたんですよ。
今回はそれが無いんでコンプ感が薄いです。

今回のRedmptionistは初期SNDで使われた配色を元にペイントされたそう。

―実際に弾いてみて、私もそう思いましたね。
SN:次にTreble(コントロール)のカーブがグっときたんですよ。
これが今回凄く難しかったところで、パッシブのトーン回路っていろんなタイプがあると思うんですけど、当時いろいろ試行錯誤していたときは今回のアイデアは出す事ができなかったんです。
しかし、ちょっと変わったタイプがふっと浮かんで、それを採用したところ12時より手前では今までのRedっぽい感じが出て、その後は極端じゃないけど、なるほどって変化をする。
パッシブのトーン回路の変化でスイートスポットを3つ以上作るのは難しい事と考えますが、今回はそれがうまくいったと思います。
―3つですか?もっとあると思いますけど・・・
SN:いやいや、3つぐらいですよ。あと、今回一番違うのは内部ですね。
―SNDとLeqtiqueのRedとで、具体的に内部の違いはどんなものでしょうか?
SN:比較して1番違うのは、LeqtiqueのRedは所謂電解コンデンサーを1個も使っていない事。
これが事実としては1番強烈でしょう。
まずリップルノイズ(※9)のフィルターとして今まで電解コンデンサーを使わなければならなかった部分には、ここ数年のLeqtique製品では定番の導電性高分子アルミ個体電解コンデンサー(※10)を用いています。
これは単純にテクノロジーが進化する過程で生み出された恩恵に肖っているような形です。電解コンデンサーに比べると遥かに高価ですが、サイズを小さくできる事もあり、非常に助かっています。
また、薄膜MLCC(積層セラミックコンデンサー)という、近年のテクノロジーで小型化が極めて進んだコンデンサーを増幅部のRCコンビネーションに採用していますね。その箇所に電解コンデンサーを用いると低域がルーズになりがちで、かと言って10uFという大きい値が必要である為、サイズが大きくなってしまうフィルムコンデンサーを使う事もできず、また長時間の使用にも耐えうる安定したクオリティという意味でそれまで多く使われていたタンタルコンデンサよりもMLCCは優れていました。

Redemptionistの内部。無駄の無い設計が見て取れる。

―そこが1番大きいところなんですね。予想だにしない選択ですね。
SN:これは大きな事ですよ!!
電解コンデンサーを使ってないエフェクターが他に存在するかは判りませんが、自分が見つけたらワクワクしてしまいますよ。
―それは確かに・・・
SN:それとダイオードですね。
―クリッピングダイオードの部分は誰が見ても驚きますね。どうなっているんですか、これは。2種類使われているダイオードの内、片方はオーディオ機器等で見られるブリッジダイオードですよね?これでクリッピングを作っているんですか?
SN:その通りですね。

美しくレイアウトされている基盤部。それぞれで意味のあるパーツがそこに鎮座している。

―これにはどのような狙いが?
SN:2つのダイオードをこれ1つで賄えるんで、2つのクリッピングの特性を合わせる事が出来る事。作る際も効率的ですし。
でも、こんな物もエフェクターに使えるという、可能性を提示したかったという事が一番大きいですかね。
―ではもう片方のダイオード。こちらにはLEDが一つしか入っていないのですが・・・どうなっているんでしょうか?
SN:この1つに見えるLED、実は交流電源用のLEDで、等価回路で表すと中で互い違いになったLEDが2個入っているような物なんです。
3mmの物は2社しか製造していない、更には特注ラインなので見つけるのが困難でした。
―そうだったんですね!それは凄い!
SN:このLEDの存在を知った時、僕も最初はクリッピングに使えるかを疑っていたんですが、使ってみるとバッチリで。
―かつて無いアイデアですね。本当に驚きました。
SN:でもこのLEDを使った方が2つの対称クリッピングの特性を合わせ易いですし、実は内部でアシンメトリカルなスレッショルドレベルにすることもできて、パっと見での回路のクリッピング方法を隠す事も出来るんです。
是非、他のデザイナーの方々にも試してもらいたいような素晴らしい素材だと思います。

今回のRedmptionistに多く使われる事となったカーボンコンポジション抵抗。

―1つのLEDで非対称までも・・・素晴らしい試みですね。
その他のどのパーツにもそれぞれ大きな意義があるように見えるのですが、どうでしょうか?
SN:基本的にはSNDのRedを再現したくはあって。
基盤を見ると直ぐに解る事なんですが、普段よりメタルフィルム抵抗が少なく、逆にカーボンコンポジション抵抗が多いんですよ。
―そうですね。Leqtiqueの作品でPRP(※11)の抵抗が少ないなんて珍しいですね。
SN:僕の作るエフェクターではあり得ない事じゃないですか。本来であればメタルフィルムを使いたい部分もあえてカーボンコンポジションを使っているんです。
何故かと言うと、昔にSNDのRedを作っていた頃、カーボンコンポジションを多く使っていた初期の個体がスムースだとユーザーさんに言われるんです。
今だと僕が設計するエフェクターで、特にバイアス抵抗や分圧抵抗等は絶対にメタルフィルムを使うんですが、昔はそういった部分にもカーボンコンポジションを使っていました。
この部分には絶対にメタルフィルムを使った方がノイズが少ないんです。実際に計算式で表せるぐらいですから。
それにも関わらず、ほんの僅かながらカーボンコンポジションの方が音がスムースになる。

PRP社のメタルフィルム抵抗。Leqtique製品のトレードマーク的存在の一つ。Redemptionistには数カ所にのみ使われている。

―それは数値的にですか?聴覚上の話ですか?
SN:聴覚上です。本当に僅かなんですが。
イマジネーションの世界、というような内容でもあるのですが、今回そういった歴史があるからこそ今出来る事だなと思って、敢えてカーボンコンポジション抵抗を多く採用したんです。
―ちなみに、どこのメーカーのカーボンコンポジション抵抗なんですか?
SN:今回はIRC/TT Electronicsの物を使っていますが、Maestro Antique RevisedでAB抵抗を使用した以外、Leqtiqueでは全作品でArcol、IRC/TT Electronics、TE Connectivityの物を見境なく使用していますよ。
日本国内で製造されている事の多いそれらですが、現行のカーボンコンポジション抵抗であるのにエンド部の仕上げが非常に美しく、安心して使用しています。
―なるほど。その他、使用したコンデンサーにはどのような狙いがありましたか?
SN:カップリングに使用したMallory 150(※12)。あまり知られていませんが、僕はあのコンデンサーが大好きなんですよ。
―意外ですね。私もあのコンデンサーは好きなんですが、Leqtiqueでは今まで使われていなかったですよね。

今回のRedemptionistにクリッピングダイオードとして採用された交流電源用LED。エフェクター業界にとっては革新的なパーツだ。

SN:最初の方にお話ししたMI AudioのCrunch Boxを改造したモデル。それに使ったコンデンサーのほとんどがMallory 150でしたよ。
昔のRedはその部分にELNAのSILMIC II(※13)のリードフリーじゃ無い方、今となっては激レアな電解コンデンサーなんですけど、それを使っていたんですね。
でも、今回は電解コンデンサーを排除した事と、今後の作品の世界観を提示する意味で150を使いました。今後はアキシャル(※14)もガンガン使うぞ、と。
それと基盤の見た目のバランスを取る意味もあります。Wimaだと基盤の右半分がガラ空きになっちゃうんで。
―確かに。ワイアリングといい、そういった内側の外観の事も気になさっているんですね。

Shun Nokina氏が持つ今後の構想

―アナログの歪みエフェクターは出尽くした、新しい物を作るのは難しい、等と言われる昨今ですが、Shun Nokinaさんもそう思われますか?

Leqtiqueの特徴的なハンドペイントはフランス人画家モネが持つ色彩の影響もあると、Shun Nokina氏は言う。

SN:僕が最近使い始めたD-MOSFET(※15)もそうですし、他にもV-MOSFET等。テクノロジーの進歩が凄まじいので今後新しい素子は無限に出てきます。素子が増えている分、未来的に言えば回路もやり尽くせないですよ。
それに総合的な面で見ればまだまだ出尽くしてなんていませんよ。例えば筐体のデザインや、フィニッシュの芸術性、また機能面などです。
例えば、機能面で言えばリレーなどをベースとしたバイパス方法だって実際は亜種の山で、一括りにする事など不可能なほど各社が色々トライしているんですよ。まだまだこれからです。
―まだこれからとは、頼もしいです。では、次回作はどのような物になるのしょうか?答えられる範囲で結構ですので、教えて下さい。
SN:次はLeqtiqueでウルトラローゲインのオーバードライブを出す事を考えています。
2つ考えているのですが、1つは本当にローゲインの部分だけを抽出した物、もう1つはローゲインでありながら歪ませても良い物。
勿論、オリジナルの回路で、ですよ。ゲインを上げた時にスムースな歪みを出してくれる良質なローゲインオーバードライブになかなか出会えていないんです。
―そうですね。荒く、歪み方が汚くなる物も多くありますね。
SN:ローゲインでも使えて、ゲインを上げても自分の理想とするスムースなきめ細かい歪みを出してくれるものは特に作りたいですね。
―コントロール類はどんな物になるんでしょうか?

工房にはモネの画集が多くコレクションされていた。

SN:3ノブですね。僕は3ノブの外観が一番好きなんですよ。
逆に所謂な4ノブの配置が外見上苦手で。だから4ノブでも9/9やRedではそれが目立たないような小さなツマミを使っていて。あの配置だったら好きなんですよ。
―私も9/9、Redのツマミ配置良いと思いますね。デザインされていると思います。
SN:それともう1つ。2つあるトーンコントローラーの内、積極的に使って欲しい方を中心に置いて回しやすくして、そうでない方を小さなツマミにしてるんですよ。
これで僕が使って欲しいと思っている方のコントロールを使って頂けるかな、と。
―(笑)かなりエゴイスティックですね。
SN:そうなんですよ(笑)。 9/9ではBottomコントロールを使って欲しいし、RedではTrebleコントロールを使ってほしい。でも、補佐的な仕事をあのかわいいノブにしてもらえたらな、と思っています。
―そういった何気ないと思ってしまうようなところにも深い考えが具現化されているのですね。
注釈
※1 ケースメーカーHAMMONDが造るW39mm×D93mm×H31mmの小さな筐体。既存のエフェクターで例えるとXotic EP-Boosterの高さを抑えたようなサイズ。
※2 ドイツのERO社が造る小型のポリエステルフィルムコンデンサー。淡い緑色の外観と角の取れた音色が特徴。SNDのエフェクターには多く使われていた。
※3 Western Electricの略。優れた電話機、劇場用音響機器で有名なアメリカの総合通信事業の製造部門。同メーカーは数々の伝説、歴史的発明を残したが、1995年に姿を消した。
※4 抵抗の種類の一つ。古くから存在し、ヴィンテージの音響機器の殆どに使われている。他の種の抵抗と比べて円やかで温かみのある音色になる傾向がある。
※5 アメリカの電子部品製造メーカーの一つ。エフェクターに使われるような汎用電子部品を多く製造する。
※6 Allen Bradleyの略。良質な固定抵抗、可変抵抗を多く造っていたアメリカの部品メーカー。同社の抵抗は多くのヴィンテージギターアンプ、オーディオ機器に搭載されている。
※7 ドイツのコンデンサーメーカーであるWima社が作るメタライズドポリエステルコンデンサー。同社のコンデンサーは良質な録音機器、スタジオコンソール等に用いられる事が多い。
※8 アメリカの超高性能ICチップメーカー。同社の造るICは業界でも抜きん出た処理能力を持つ。
※9 電源由来によるノイズの一種。直流の電流に交流の成分が混じる事が原因。一般的にはブーといった低い音である。
※10 通常の電解コンデンサーが誘電体に電解液を使用するのに対し、代わりに導電性高分子を採用したコンデンサー。従来の電解コンデンサーと比べ、耐久性の向上、高周波に於けるインピーダンスの低下、本体の小型化等を可能にした。
※11 アメリカの良質な電子部品メーカー。同社の鮮やかな赤いメタルフィルム抵抗はLeqtique製品のトレードマーク的存在。高価であるが澄んだ音色を持つ。
※12 アメリカの古くからあるコンデンサーメーカー、Mallory社のコンデンサー。適度な解像度があり、自然で乾いた音色を特徴とする。
※13 古くからオーディオ用電解コンデンサーの名品を多く造っていた日本のELNA社の代表的電解コンデンサー。その名前の示す通り、内部の誘電体にシルクの元となる繊維を使っていた。
※14 電子部品の形状を表す名称。別名、チューブラ型。主に円筒状の本体の両端からリードが生えている形状の事。話題に挙がっているMallory 150はこのアキシャル型である。
※15 Shun Nokina氏が自身の設計したディストーション”9/9”で初めて採用した素子。通常はリモコンの受光部等に使用される。
今回、このロングインタビューを行ってみて、改めてShun Nokina氏の挑戦心、新しいデザインへの強い思いを感じる事が出来た。
しかし、ここまで深淵な知識と拘りを製品に込めるShun Nokina氏であるが、それでも「自分の製品は選択肢の中の1つであってほしい」と語る。
この事はとても謙虚に聞こえるかもしれないが、常に数あるエフェクターの中から選択肢の1つとして選ばれる物を作っていきたい、といった強い気概にも思える。
勿論、この発言の意図の1つには選び手の意思を尊重する謙虚さもあると思うが、Shun Nokina氏の人柄を知ると、そう思えてしまう。
個体数が多く、流行のサイクルが非常に短いエフェクター業界の中で常に選択肢に挙がるという事は想像以上に難しい。
しかし、この先もブレずに挑戦を続けるShun Nokina氏であれば常に新しい選択肢を提供し続けてくれるだろう。
このインタビューを読んで氏の作るエフェクターに興味を持って頂けた方がいたとすれば、是非、当アンプステーション店頭にて実際に音も出して頂きたい。作り手の気持ちがきっと伝わるはずである。
お問い合わせ

池部楽器店 アンプステーション

tel.03-5459-6550

amp_station@ikebe.co.jp
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